どこまでパワハラ?労働施策総合推進法(パワハラ防止法)とは。

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つい先日、「自爆営業」が労働施策総合推進法(パワハラ防止法)においてパワハラの一例として認識されることになり、職場環境改善への関心が高まっています。労働施策総合推進法は、職場におけるハラスメントを防ぎ、働く人々が安心して業務に取り組める環境を整備するために2020年6月に施行され、2022年4月からは中小企業にも義務化されました。
本記事では、労働施策総合推進法の具体的な内容、パワハラの定義、そして企業が取るべき対策について詳しく解説します。

本題の前に「自爆営業」とは何か?

24年11月ニュース記事で目にした方もおられるかもしれません。「自爆営業」とは、企業が設定したノルマを達成するために、従業員が自費で商品やサービスを購入する行為を指します(小売業や金融業をはじめ、様々な業界で事例があります)。

この行為は、従業員に対して過度の精神的・経済的負担を課し、場合によっては健康被害や経済的破綻を引き起こすこともあります。また、こうした営業形態が恒常化すると、従業員の意欲低下や離職につながり、企業のイメージや労働環境にも悪影響を及ぼします。このような行為は、労働施策総合推進法で定めるパワハラの要件を満たす可能性が高いとされています​。

労働施策総合推進法の概要

労働施策総合推進法は、職場におけるパワハラスメントを防止するために2020年6月に施行された法律で、中小企業については2022年4月から義務化されました。この法律では、パワハラを次の3つの要素で定義しています​。

  1. 優越的な関係を背景とした言動
    職場における権力関係や上下関係を利用して行われる行為。

  1. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
    業務の遂行に不要な行為や、過度な叱責など。

  1. 労働者の就業環境を害するもの
    精神的または身体的な健康を損なうような影響を与える行為。

これら3つの要素を満たす行為がパワハラに該当します。また、個別の事案では行為の目的や背景、被害者の認識などを総合的に考慮して判断されます。

パワハラの6つの類型と具体例

労働施策総合推進法では、職場におけるパワハラを6つの類型に分類しています。それぞれの具体例を示します​。

  1. 身体的な攻撃
    • 暴行や傷害を伴う行為。
      例: 殴打、足蹴り、物を投げつける。

  1. 精神的な攻撃
    • 名誉毀損や脅迫、暴言など精神的な負担を強いる行為。
      例: 人格を否定するような言動、性的指向に対する侮辱、必要以上に長時間厳しく叱責する。

  1. 人間関係からの切り離し
    • 集団での無視や孤立化を図る行為。
      例: 同僚が集団で1人の従業員を無視し、職場で孤立させる。

  1. 過大な要求
    • 明らかに不要または遂行不可能な業務を強要する行為。
      例: 必要な教育を行わずに新人に高難度の業績目標を課し、達成できない場合に厳しく叱責する。

  1. 過小な要求
    • 業務上の合理性がなく、能力や経験を無視した軽微な仕事を命じる、または仕事を与えない行為。
      例: 管理職を退職に追い込むために単純業務だけを任せる。

  1. 個の侵害
    • プライバシーへの過度な干渉。
      例: 性的指向や病歴、不妊治療などの個人情報を本人の了解を得ずに第三者に暴露する。

企業が取るべき具体的な対策

労働施策総合推進法を遵守するために、企業は以下の対策を講じることが求められます​:

  1. パワハラ禁止の明確化と周知
    職場でのハラスメント行為を禁止する方針を就業規則などに明文化し、従業員に周知します。

  1. 相談窓口の設置
    パワハラに関する相談を受け付ける窓口を設置し、相談内容に適切に対応できる体制を整備します。

  1. 迅速な対応
    問題が発生した際には、速やかに事実確認を行い、被害者への配慮や行為者への処分、再発防止策を講じます。

  1. 教育と啓発活動
    定期的に従業員や管理職向けの研修を実施し、ハラスメントを許さない職場文化を醸成します。

法律の導入による職場環境の変化

労働施策総合推進法の導入により、多くの企業で次のような改善が期待されています​:

  • 従業員間の信頼関係の向上:オープンなコミュニケーション促進。
  • 離職率の低下:安心して働ける環境の整備と、離職者減少。
  • 業務効率の向上:ハラスメント減少と、生産性向上。

今後の課題と展望

今後の課題として、以下の点が挙げられます​:

  • 中小企業支援:リソースの限られた企業に対する支援が不可欠です。
  • 新たな働き方への対応:リモートワークなど、新たな働き方に対応したハラスメント防止策が求められます。
  • 法律の柔軟な運用:社会の変化に応じた内容の見直しが期待されます。

まとめ

この記事では、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の概要、パワハラの6つの類型、企業が取るべき対策、法律導入後の効果について詳しく解説しました。この法律は働く人々の権利を守り、健全な職場環境を実現するために重要な役割を果たしています。今後も企業と従業員が協力し、この法律の趣旨を活かして職場文化を向上させていくことが期待されます。

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青山 俊彦

青山 俊彦カノープス株式会社 代表取締役

SaaSビズサイド(セールスやカスタマーサクセス、インサイドセールス、マーケ、企画領域)の転職支援が得意な人材エージェントです。採用や転職についてお気軽にご相談を!趣味は釣り。長野県安曇野市出身。

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