TASとは、Target Account Sellingの略で、重点顧客を選定し、そのアカウントに営業リソースを集中する営業手法です。日本語では、ターゲットアカウントセールスと呼ばれることもあります。
特にBtoB営業やSaaS営業では、すべての見込み顧客に同じようにアプローチするのではなく、受注可能性やLTVが高い顧客に絞って戦略的に営業活動を進めることが重要です。
TASは、まさにそのための考え方です。
この記事では、TASの意味、ABMとの違い、具体的な進め方、SaaS企業で活用する際のポイントを解説します。
TASとは?ターゲットアカウントセールスの意味
TASとは、Target Account Sellingの略称です。
直訳すると「ターゲットアカウントに対する営業」という意味で、特定の重要顧客を選定し、その顧客に合わせた営業戦略を立てる手法を指します。
一般的な営業活動では、幅広い見込み顧客にアプローチし、その中から商談化・受注を目指します。
一方、TASでは最初に「狙うべき顧客」を明確にします。
・自社プロダクトとの相性が高い企業
・受注した場合の売上規模が大きい企業
・継続利用やアップセルが期待できる企業
・意思決定プロセスを把握しやすい企業
・導入事例として価値が高い企業
このような重点顧客に対して、業界理解、組織構造、意思決定者、課題、導入タイミングなどを深く調べたうえで、個別性の高い提案を行います。
つまりTASは、単に「営業先を絞ること」ではありません。
狙うべき顧客を決め、その顧客を攻略するために営業活動を設計する考え方です。
TASがSaaS営業で重要な理由
SaaS営業では、TASの考え方が特に重要です。
理由は、SaaSビジネスでは新規受注だけでなく、継続利用、アップセル、クロスセル、LTVの最大化が重要になるためです。
短期的に受注できそうな顧客だけを追いかけても、導入後に活用が進まなければ、解約や低単価利用につながる可能性があります。
一方、自社プロダクトとの相性が高く、課題が明確で、導入後の活用余地が大きい顧客を獲得できれば、長期的な収益につながりやすくなります。
TASは、このような「獲得すべき顧客」を見極めるための営業手法です。
特にエンタープライズ向けSaaSでは、意思決定者が複数存在し、商談期間も長くなりやすいです。
そのため、誰に、どの順番で、どのような提案を行うかを設計しなければ、商談が前に進みにくくなります。
TASは、こうした複雑な法人営業を進めるうえで有効な考え方です。
TASとABMの違い
TASと混同されやすい言葉に、ABMがあります。
ABMとは、Account Based Marketingの略で、特定の重要アカウントに対して、マーケティングと営業が連携してアプローチする考え方です。
TASとABMはどちらも「重要顧客に絞る」という点では共通しています。
ただし、主な違いは担当領域です。
TASの特徴
・営業活動を中心に考える
・重点顧客への商談設計、提案、クロージングに重きを置く
・営業担当者や営業組織が主導することが多い
・顧客ごとの課題把握、意思決定者の特定、提案戦略が重要になる
ABMの特徴
・マーケティングと営業の連携を重視する
・重点顧客に対する認知形成やナーチャリングも含む
・広告、コンテンツ、イベント、インサイドセールスなども活用する
・部門横断でターゲットアカウントを攻略する
簡単に言えば、TASは「営業視点で重点顧客を攻略する手法」、ABMは「マーケティングと営業が連携して重点顧客を攻略する考え方」と整理できます。
SaaS企業では、TASとABMを切り分けるというより、組み合わせて活用するケースが多いでしょう。
TASの進め方
TASを実践する際は、やみくもに大企業や有名企業を狙うのではなく、自社にとって本当に攻略すべきアカウントを見極めることが重要です。
ターゲットアカウントを選定する
まずは、狙うべき顧客を選定します。
選定基準には、以下のようなものがあります。
・企業規模
・業界
・売上規模
・従業員数
・利用中のシステム
・課題の深刻度
・導入後のLTV
・アップセル余地
・既存顧客との類似性
SaaS営業では、単に受注金額が大きい企業だけでなく、導入後に成果が出やすい企業かどうかも重要です。
顧客情報を収集する
次に、ターゲットアカウントの情報を集めます。
・事業内容
・組織体制
・直近のニュース
・採用情報
・導入済みツール
・経営課題
・部門ごとの課題
・意思決定に関わる人物
公開情報、商談履歴、CRM、MAツール、既存接点などを活用し、顧客理解を深めます。
この段階で情報が浅いままだと、提案も一般論になってしまいます。
課題と仮説を整理する
TASでは、顧客ごとの課題仮説を立てることが重要です。
たとえば、営業支援SaaSであれば、以下のような仮説が考えられます。
・営業活動が属人化しているのではないか
・商談管理が個人任せになっているのではないか
・マネジメントが案件状況を把握しづらいのではないか
・受注率や失注理由の分析が十分にできていないのではないか
こうした仮説を持ったうえで商談に臨むことで、単なる機能紹介ではなく、顧客の事業課題に踏み込んだ提案がしやすくなります。
関係者を整理する
BtoB営業、とくにSaaSのエンタープライズ営業では、意思決定者が一人とは限りません。
現場担当者、部門責任者、情報システム部門、経営層、購買部門など、複数の関係者が関わります。
TASでは、誰が利用者で、誰が決裁者で、誰が導入に影響を与えるのかを整理する必要があります。
・利用部門
・推進者
・決裁者
・反対しそうな関係者
・情報システム部門
・購買、法務、経理などの関係部門
関係者ごとに関心や懸念は異なります。
現場は使いやすさを重視し、管理職は成果や可視化を重視し、経営層は投資対効果を見ます。
それぞれに合わせて伝える内容を変えることが、TASでは重要です。
提案内容を個別化する
最後に、顧客ごとに提案内容を設計します。
同じSaaSを提案する場合でも、顧客によって刺さるポイントは変わります。
・コスト削減を重視する企業
・売上拡大を重視する企業
・業務標準化を重視する企業
・属人化解消を重視する企業
・ガバナンス強化を重視する企業
TASでは、プロダクトの機能を一方的に説明するのではなく、顧客の課題に合わせて「なぜ今導入すべきなのか」を伝えることが求められます。
TASを活用するメリット
TASを活用するメリットは、営業リソースを重要顧客に集中できることです。
すべての見込み顧客に同じ工数をかけるのではなく、受注可能性や事業インパクトが大きい顧客に注力することで、営業活動の質を高めやすくなります。
受注確度を高めやすい
顧客理解を深めたうえで提案するため、一般的な営業トークよりも顧客の課題に合った提案がしやすくなります。
結果として、商談の質が高まり、受注確度の向上につながります。
大型商談に向いている
TASは、単価が高い商材やエンタープライズ向けの商談と相性がよい手法です。
関係者が多く、意思決定に時間がかかる商談では、アカウントごとの攻略計画が欠かせません。
LTVを高めやすい
SaaSでは、受注後の継続利用が重要です。
自社プロダクトとの相性が高い顧客を選び、導入前から課題や期待値を整理しておくことで、導入後の活用やアップセルにもつなげやすくなります。
営業組織の再現性を高められる
TASを導入すると、どの顧客を狙うのか、どの情報を集めるのか、どのように提案するのかを整理しやすくなります。
個人の勘や経験に頼った営業から、組織として再現性のある営業活動に近づけることができます。
TASの注意点
TASは有効な営業手法ですが、すべての企業や商材に合うわけではありません。
特に注意したいのは、ターゲット選定を誤ると、営業リソースが無駄になりやすいことです。
ターゲット選定に時間がかかる
TASでは、顧客情報の収集や分析に時間がかかります。
そのため、商談単価が低い商材や、短期間で大量のリードを処理するモデルでは、工数に見合わないことがあります。
情報収集が不十分だと提案が浅くなる
TASは顧客理解を前提とした営業手法です。
情報収集が不十分なまま提案すると、「自社のことを理解していない」と見られ、かえって信頼を損なう可能性があります。
営業だけでは完結しにくい
SaaS営業では、マーケティング、インサイドセールス、カスタマーサクセス、プロダクト部門との連携も重要です。
営業だけでTASを進めようとすると、情報が分断され、アカウント攻略の精度が下がることがあります。
短期成果だけを追うと形骸化しやすい
TASは、中長期で重要顧客を攻略する考え方です。
すぐに受注できる顧客だけを追いかけると、本来狙うべきアカウント戦略から外れてしまうことがあります。
SaaS営業でTASを活かすポイント
SaaS営業でTASを活かすには、単に「大手企業を狙う」のではなく、自社にとって勝ち筋のある顧客を見極める必要があります。
特に重要なのは、ICPを明確にすることです。
ICPとはIdeal Customer Profileの略で、自社にとって理想的な顧客像を指します。
・どの業界で成果が出やすいのか
・どの規模の企業に導入されやすいのか
・どの部門に課題が発生しやすいのか
・どのようなタイミングで導入ニーズが高まるのか
・導入後に継続利用されやすい条件は何か
このような条件を整理することで、TASの精度が高まります。
また、SaaS営業では受注だけでなく、導入後の活用まで見据えることが重要です。
そのため、営業段階からカスタマーサクセスと連携し、「受注して終わり」ではなく「成果が出る顧客かどうか」を見極める視点も必要です。
TASを学ぶことは営業キャリアにどう活きるか
TASの考え方は、SaaS営業のキャリアにも活かせます。
特に、エンタープライズ営業、アカウントエグゼクティブ、フィールドセールス、事業開発などを目指す人にとっては重要なスキルです。
なぜなら、これらの職種では単に商談数をこなすだけでなく、顧客ごとに戦略を立てて売上を作る力が求められるからです。
TASを理解している営業担当者は、以下のような観点で商談を進められます。
・どの顧客に注力すべきか
・誰に接点を持つべきか
・どの課題を起点に提案すべきか
・どの関係者を巻き込むべきか
・どのタイミングでクロージングすべきか
こうした力は、SaaS営業としての市場価値を高めるうえでも重要です。
求人票に「エンタープライズ営業」「大手企業向け営業」「アカウントプランニング」「ABM連携」などの言葉がある場合、TASに近い営業力が求められている可能性があります。
転職活動では、応募先企業がどのような顧客を狙い、どのような営業戦略を取っているのかを確認するとよいでしょう。
まとめ
TASとは、Target Account Sellingの略で、重点顧客を選定し、そのアカウントに営業リソースを集中する営業手法です。
日本語では、ターゲットアカウントセールスと呼ばれることもあります。
SaaS営業では、受注可能性やLTVが高い顧客を見極め、顧客ごとに提案戦略を立てることが重要です。
TASは、そうした戦略的な営業活動を行うための考え方です。
ABMがマーケティングと営業の連携を含む広い考え方であるのに対し、TASは営業活動における重点顧客攻略の手法として整理できます。
特にエンタープライズ営業や大手企業向けSaaS営業では、ターゲット選定、顧客理解、関係者整理、個別提案の力が成果を左右します。
SaaS営業としてキャリアを伸ばしたい方は、TASの考え方を理解し、自分の営業活動や転職先選びにも活かしていきましょう。
お知らせ
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本プログラムは、日本国内ではウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社が著作権元のUpland Software社とのアライアンスパートナー契約に基づき正規に販売・提供しております。詳細については以下のページをご覧ください。
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