2025年SaaSトレンド予測を米国SaaS企業のレポートから読み解く

2025trend

SaaS業界は日々進化を続け、ビジネスモデルやテクノロジーの変化は加速度的に進んでいます。2025年には、課金モデル、AI活用、業界特化型の製品設計など、さまざまな面で新しい潮流が生まれつつあります。本記事では、米SaaS企業「Orb」が2025年6月に公開した最新レポートをもとに、今後注目すべきSaaSのトレンドを読み解いてみます。

利用量ベース課金と柔軟な価格設計の時代へ

SaaSの料金体系は今、大きな転換期を迎えています。これまで主流だった月額や年額の定額サブスクリプションモデルは、「実際に使った分だけ支払う」という利用量ベース課金(UBP)へとシフトしています。2025年には、利用量に応じた課金モデルを採用するSaaS企業が多数派となり、よりフェアで効率的な価格設計が期待されています。

この変化に対応するには、リアルタイムでの利用量トラッキングが可能なインフラの構築が不可欠です。また、従量課金に加え、ユーザー数、機能ごとの利用状況など複数の軸を組み合わせたハイブリッド課金が増加しています。こうした価格設計の柔軟性は、顧客満足度を高めると同時に、LTV(顧客生涯価値)の最大化にも寄与します。

AIネイティブ化するSaaSとその収益構造

生成AI(GenAI)の普及により、SaaS製品は「AIネイティブ」へと進化しています。これは、AIがプロダクトの一部として自然に組み込まれ、その機能がユーザー体験や価値に直結する状態を指します。チャットボット、ドキュメント生成、予測分析など、AI機能がコア価値になる中で、料金体系もまた進化を迫られています。

特にGPUインフラなどのAIの処理を実行するシステムやサーバのコストは高く、利用量ベースで回収するモデルが求められます。結果として、「AIによる作業件数」や「推論実行数」といった新たな課金指標が登場。今後は、こうした指標をいかに明示し、顧客に納得感をもたせるかが重要です。透明性のある価格提示と、リアルタイムでの可視化が必須になるでしょう。

PLGの進化と収益オペレーションの自動化

プロダクト主導型の成長(PLG)は、スタートアップを中心にすでに浸透していますが、2025年にはより高度なフェーズに移行します。無料プランから有料プランへの移行は、単にトライアル期間を設けるのではなく、ユーザーの利用状況に応じたタイミングで自動的に提案するなど、パーソナライズされた体験が主流です。

また、複雑化する課金体系や契約内容の変更に対応するためには、手作業に依存しない「収益オペレーションの自動化」が重要となります。請求処理、売上認識、契約更新、使用量通知などのプロセスを一元管理できる基盤の整備が、スケールアップの成否を左右します。

業界特化・フィンテック連携・API課金の潮流

SaaSの「業界特化(Vertical SaaS)」は、今や成熟期に入っています。医療、建設、製造、物流など、それぞれの業界特有のニーズや規制に対応するプロダクトが増え、標準的なSaaSとの差別化を図っています。たとえば、診療報酬や保険請求、業界ごとの法規制への準拠は、単なる機能追加にとどまらず、サービス全体の設計思想に関わる課題です。

一方、決済やウォレットなどのフィンテック機能をSaaSに統合する「組み込み型金融」も注目されています。さらに、APIを外部に公開・販売することで、利用回数やデータアクセス量に応じた収益を上げるモデルも一般化しており、B2B SaaSの70%以上がAPI課金を導入しているというデータもあるようです。

グローバル対応と請求インフラの未来像

SaaS企業のグローバル展開が進む中、各国の税制や法令に準拠した運用が求められています。特にEUやAPAC諸国では、データローカライゼーションや電子請求書義務化が進んでおり、それに対応できる請求インフラの整備は喫緊の課題です。

また、顧客が自身の使用状況や請求金額をリアルタイムで確認できるダッシュボードの提供も、顧客満足度向上に不可欠です。加えて、課金ロジックの改修をソースコードの大幅な書き換えなしで実行できる「ノーリビルド」の収益管理基盤のニーズも高まっています。

これらを実現するには、柔軟性と拡張性のあるSaaS基盤が必要不可欠であり、こうしたインフラ投資が、今後の競争優位性を左右すると言っても過言ではありません。

まとめ

2025年のSaaS業界では、従量課金の本格化、AIのネイティブ化、PLGの進化、業界特化型戦略、フィンテック連携、グローバル対応など、多面的な変革が進行しています。これらの動向に素早く対応できる収益インフラと柔軟な価格戦略の構築こそが、今後の成長を決定づける重要な要素となります。

合わせて読みたい
SaaS 2.0時代の到来:Service as a Softwareとは何か?

青山 俊彦

SaaSビズサイド(セールスやカスタマーサクセス、インサイドセールス、マーケ、企画領域)の転職支援が得意な人材エージェントです。採用や転職についてお気軽にご相談を!趣味は釣り。長野県安曇野市出身。

関連記事