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SaaS業界では、M&A(企業買収・合併)の動きが加速しています。2023年はSaaS企業のIPOが低調だった一方で、M&A件数が過去最高を記録しました。この流れは2024年も継続しており、業界の再編が進んでいます。本記事では、最近のM&A事例を紹介しながら、SaaS市場の変化を分析し、今後の展望について考察します。
SaaS業界におけるM&Aの主な目的
SaaS企業がM&Aを実施する背景には、いくつかの目的があります。主に以下の4つの理由が挙げられます。
(1) 技術獲得
競争の激しいSaaS業界では、技術革新が欠かせません。特にAIやデータ分析などの最先端技術を獲得するために、M&Aを活用する企業が増えています。既存プロダクトに新技術を統合し、競争力を強化する狙いがあります。
(2) 顧客基盤の拡大
M&Aを通じて、新たな市場や業界へのアクセスを得ることができます。すでに確立された顧客基盤を持つ企業を買収することで、営業コストを抑えつつ市場シェアを拡大できます。
(3) 新規市場への参入
異なる業界や地域への展開を加速する手段としても、M&Aは有効です。特に、海外展開を狙う企業にとっては、現地企業を買収することでスムーズに市場参入が可能になります。
(4) サービスラインナップの拡充
SaaS企業は単一のプロダクトだけでは成長が難しくなってきており、複数のソリューションを提供することが求められています。そのため、補完的なサービスを持つ企業を買収し、製品ポートフォリオを強化する動きが見られます。
最近のSaaS業界におけるM&A事例
(1) プラスアルファ・コンサルティングによるAttackの買収(2024年2月)
対象企業の業種: 採用コンサルティング
取得比率: 100%
取得価格: 80百万円
プラスアルファ・コンサルティングは、自社のタレントマネジメントツール「タレントパレット」とAttackの採用コンサルティング・支援サービスを組み合わせることで、より強固な人材採用ソリューションを提供する狙いです。この買収により、タレントパレットの導入支援やアップセルを強化し、市場での競争力を高めることを目的としています。
(2) 日伝によるアペルザの買収(2024年3月)
対象企業の業種: ものづくり産業向けオンラインプラットフォーム
日伝は、アペルザの買収を通じて、製造業向けのSaaSプラットフォームを強化する狙いがあります。製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中、アペルザの技術力を活用し、製造業向けのクラウドソリューションを強化することが期待されています。
(3) fonfunによるイー・クラウドサービスの買収(2024年7月)
対象企業: 飲食店向け日次決算プラットフォームのSaaS事業
取得比率: 100%(完全子会社化)
fonfunは、DX事業の強化を目的として、飲食業界向けSaaSを展開するイー・クラウドサービスを買収しました。この買収により、飲食業界に特化したクラウドソリューションを強化し、HRテック分野への進出も視野に入れています。
(4) クラウドワークスによるシューマツワーカーの買収(2023年3月)
対象企業: 副業人材と企業をマッチングするプラットフォーム
取得比率: 62.6%
取得価額: 11億6600万円
クラウドワークスは、副業市場の成長を見据え、シューマツワーカーを買収しました。このM&Aによって、副業マッチングプラットフォームを強化し、フリーランス・副業市場におけるプレゼンスを拡大する狙いです。
SaaS業界M&Aの今後の展望
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(1) 複数プロダクト化の加速
SaaS企業は、単一のプロダクトでは成長が難しくなりつつあります。そのため、M&Aを通じて複数プロダクトを展開し、収益の多角化を図る動きが今後も加速すると予想されます。
(2) AI統合の進展
SaaS企業は、競争力を維持するためにAI技術の統合を進めています。特に、既存のサービスにAIを組み込む「Embedded AI」が注目されており、AIスタートアップの買収が活発化すると考えられます。
(3) 垂直統合の増加
特定業界に特化したバーティカルSaaSの成長が続いており、業界特化型SaaSのM&Aが増加すると予想されます。医療、金融、製造業などの分野での統合が進むでしょう。
(4) グローバル展開の加速
日本企業の海外展開や、海外SaaS企業の日本市場参入が増加すると予想されます。特に、アメリカやヨーロッパのSaaS企業が日本市場に本格参入する動きが見られます。
(5) 業界再編の進行
競争の激化により、中小SaaS企業の統合や、大手企業による買収が増加すると考えられます。資金力のある企業が成長を続ける一方で、小規模SaaS企業はM&Aを選択肢とするケースが増えるでしょう。
まとめ
SaaS業界では、M&Aが加速しており、技術獲得、顧客基盤の拡大、新市場参入、サービス拡充を目的とした買収が進んでいます。今後は、複数プロダクト化、AI統合、垂直統合、グローバル展開が加速し、業界の再編が一層進むことが予想されます。