小さく始めて大きく育てる。SaaS業界におけるランド・アンド・エクスパンド戦略とは?

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企業が持続的に成長するための戦略として注目されている「ランド・アンド・エクスパンド(Land and Expand)」。新規顧客を獲得し、その後に追加サービスや機能を提案して収益を拡大するこの戦略は、サブスクリプション型のビジネスであるSaaS企業に適しています。本記事では、ランド・アンド・エクスパンド戦略の基本概念から、その成功のためのポイントまでを詳しく解説します。

ランド・アンド・エクスパンド戦略とは?

「ランド・アンド・エクスパンド」戦略は、新規顧客の獲得(ランド)を起点に、追加機能やサービスを提供することで収益を拡大(エクスパンド)する手法です。具体的には、無料トライアルや小規模な契約で顧客にサービスを試してもらい、満足度を高めた上で、アップグレードや追加サービスを促しながら取引全体を大きくしていきます。

サブスクリプションモデルを採用し、顧客が継続的にサービスを利用することを前提にしたSaaS業界においてこの戦略は効果的です。顧客を獲得し、その後も継続的に価値を提供する中で、アップセルやクロスセルも行いながら、ライフタイムバリュー(LTV/顧客生涯価値)を最大化することができます。

SaaS業界におけるランド・アンド・エクスパンド戦略のメリット

SaaS企業がランド・アンド・エクスパンド戦略を採用する主な理由は、以下の3つのメリットにあります。

1つ目はライフタイムバリュー(LTV/顧客生涯価値)の向上です。契約を継続している顧客に対して追加のサービスを提供することで、契約の規模や利用期間を長くし、総収益を増やすことができます。

2つ目は顧客獲得コスト(CAC)の効率化です。新規顧客獲得には通常、広告やセールスの費用がかかりますが、既存顧客に対するアップセルやクロスセルにはそれほどコストがかかりません。このため、より少ない投資で収益を拡大できる点が大きなメリットです。

3つ目は顧客ロイヤルティの向上です。ランド・アンド・エクスパンド戦略を通じて、顧客が自社サービスに満足することで、長期的な契約を維持しやすくなります。顧客の満足度が高まるほど、解約率(Churn Rate)が低下し、結果的にビジネスの安定性が向上します。

ランド戦略:初期顧客獲得のカギ

ランド戦略では、いかにして初期顧客を獲得するかが重要なポイントです。顧客にサービスの価値をいち早く実感してもらうことが求められます。そのため、無料トライアルや低価格なエントリープランを提供することが一般的です。これにより、顧客はリスクを感じることなくサービスを試すことができ、その後の本契約につながりやすくなります。

また、導入後の顧客サポートやオンボーディングプロセスはさらに重要です。顧客がスムーズにサービスを使いこなせるよう、初期段階からサポートを手厚くすることで、顧客が早期に価値を実感し、契約の継続やアップセルを促すことができます。この初期段階の体験が、エクスパンド戦略の成功に直結します。

エクスパンド戦略:既存顧客からの収益拡大

エクスパンド戦略は、既存顧客に対して新しい価値を提供し、契約範囲を拡大して収益を増やすことを目的としています。SaaSでは、以下の2つの手法が主要なアプローチです。

アップセル
アップセルは、顧客が現在利用しているプランや機能を、より高価な上位プランにアップグレードすることを促す手法です。たとえば、ユーザー数や利用可能な機能を増やす上位プランを提案することで、顧客の成長ニーズに対応しながら、収益を拡大します。

クロスセル
クロスセルは、現在契約しているサービスに関連する別のサービスや製品を提供する手法です。例えば、CRMツールを使っている顧客に、マーケティングオートメーションツールを提案することで、顧客がより広範なソリューションを利用できるようにします。このクロスセルアプローチにより、顧客のビジネス全体をサポートしながら収益を増やすことが可能です。

エクスパンド戦略を成功させるためには、顧客との定期的なコミュニケーションや、利用状況の分析が不可欠です。顧客が抱える課題やニーズを把握し、適切なタイミングで提案を行うことで、自然な形でサービスの拡張が進みます。

ランド・アンド・エクスパンド戦略の成功事例

ランド・アンド・エクスパンド戦略が成功している代表的なSaaS企業として、SalesforceやZoomがあります。

Salesforceは、最初にCRM(顧客管理)ツールを提供し、多くの企業のニーズに応えました。新規顧客獲得後、マーケティングなどの機能を追加し、顧客に対してより広範なサービスを提供しました。このエクスパンド戦略によって、同社は顧客基盤と収益を大幅に拡大させました。

Zoomも、ビデオ会議ツールとしてのシンプルな機能からスタートし、その後ウェビナーや大規模ミーティング向けのプランを導入することで、既存顧客に新たな価値を提供しました。Zoomの急速な成長は、このエクスパンド戦略の成功に支えられています。

外資2社の事例を用いましたが、この戦略は国内SaaS企業でもかなり浸透しています。

まとめ

ランド・アンド・エクスパンド戦略は、コンパクトな契約で顧客を獲得し、収益を最大化していくための効果的なアプローチです。まずは初期顧客を獲得し、次に顧客のニーズに応じた追加サービスや機能を提供することで、LTVを高めながら持続的な成長を実現できます。この戦略は、特にサブスクリプション型ビジネスのSaaS企業にマッチします。

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青山 俊彦

青山 俊彦カノープス株式会社 代表取締役

SaaSビズサイド(セールスやカスタマーサクセス、インサイドセールス、マーケ、企画領域)の転職支援が得意な人材エージェントです。採用や転職についてお気軽にご相談を!趣味は釣り。長野県安曇野市出身。

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