
企業のデータ活用が高度化し、SaaSの利用が当たり前になった現代では、データ品質やセキュリティを維持しながら利活用を促進する「データスチュワード」という役割が注目されています。この役割は、SaaSベンダー社内にも、SaaSを利用する顧客企業側にも置かれる可能性がありますが、両者では業務の焦点や責任範囲が異なります。本記事では、それぞれの立場における役割、必要スキル、活躍事例、そして今後の重要性について詳しく解説します。
データスチュワードの基本概念と立ち位置
データスチュワードとは、組織のデータ資産を管理し、その品質・セキュリティ・利活用を担保する専門職です。「データの執事」とも呼ばれ、データオーナー(所有者)とデータユーザー(利用者)の間に立ち、全体最適の視点で調整や監督を行います。
単なるデータ管理者と異なり、業務目的やビジネス戦略を理解し、それに沿ったデータ活用基盤を整えるのが特徴です。近年では、データガバナンスや法令遵守の観点からも、その存在価値が高まっています。
SaaSを利用する顧客企業側のデータスチュワード
SaaSを利用する顧客企業に置かれるデータスチュワードは、自社のデータ資産全体を統括します。SaaSに格納されるデータだけでなく、オンプレミスのデータベース、他のSaaS、業務ツールに分散するデータも含めて、一貫したルールで管理し、利活用を促進します。
主な役割
・SaaSに蓄積されたデータを他システムと統合し、分析や活用時の品質・整合性を担保
・個人情報や機密情報を扱う際の法規制遵守(個人情報保護法、GDPRなど)を監督
・部門間のデータ共有ルールや命名規則を策定し、標準化を推進
・データの正確性や一貫性を維持するための品質チェックやエラー修正のプロセス管理
事例
・営業部門のCRMデータとマーケティング部門のMAツールデータを統合し、顧客解約率の予測モデルを高精度化
・複数のSaaSから抽出したデータをBIツールに連携し、経営ダッシュボードの精度を向上
・個人情報を含む問い合わせ履歴データのマスキングルールを制定し、分析可能な形で活用
SaaSベンダー社内のデータスチュワード
一方、SaaSベンダー社内のデータスチュワードは、自社サービスに関連するデータ管理に特化します。
主な役割
・顧客から預かったデータの正確性・一貫性を維持し、サービス品質を確保
・新機能開発や改善に伴うデータモデルの設計・更新
・顧客データの分析・活用におけるルール策定とプライバシー配慮(匿名化・統計処理など)
・顧客の導入支援として、データ移行や初期登録のサポート
事例
・新しいAPIリリースに伴い、データ同期の整合性を確保するための監視体制を構築
・顧客のデータ移行プロジェクトで、旧システムのデータをクレンジングしてからSaaSへ取り込み
・利用状況データを分析し、機能改善やUI最適化の根拠を提供
なぜ今、データスチュワードが求められるのか

企業が利用するSaaSの数は年々増加し、それに伴ってデータが複数のシステムに分散しています。これにより、以下の課題が顕在化しています。
・データの重複、欠損、不整合による分析精度の低下
・異なるシステム間での定義やフォーマットの違いによる統合の難しさ
・個人情報や機密データの取り扱いに関する法令違反リスク
SaaS利用企業では、全社的なデータガバナンスの中核としてデータスチュワードが求められます。
SaaSベンダー側でも、データ品質とプライバシー保護は顧客信頼の基盤であり、これを担保する人材が不可欠です。
必要なスキルと適性
共通して必要なスキル
・データベースや情報システムに関する知識
・SQLなどのクエリ言語を用いたデータ検証スキル
・データ品質管理のための分析力と課題発見力
・ルールやガイドラインを策定・文書化する能力
・複数部門や顧客とのコミュニケーション力
立場別に求められる強み
・利用企業側:部門横断の調整力、全社的なデータ基盤構築経験
・ベンダー側:サービス仕様に沿ったデータモデル設計力、顧客対応力
適性としては、細部への注意力、ルール遵守の姿勢、継続的改善への粘り強さが挙げられます。
まとめ
データスチュワードは、SaaSを利用する顧客企業とSaaSベンダーの双方で重要な役割を果たします。利用企業側では全社的なデータ資産の管理・統合、ベンダー側ではサービス品質と顧客支援が主なミッションです。どちらの立場でも、データ品質やガバナンスを維持する力は、今後のビジネス競争力を左右する重要な要素となるでしょう。