ETLとは?データのサイロ化を防ぐ基盤整備の重要性

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SaaSツールの導入が進むなかで、多くの企業が直面するのが「データのサイロ化」という課題です。部門ごとに異なるツールを使うことで、顧客情報や業務データが分断され、全社的な意思決定やKPI管理に支障が出るケースも珍しくありません。こうした課題を解決する手段として注目されているのが「ETL」です。本記事では、ETLの基本概念から、サイロ化解消への効果、実際の活用事例、そして導入時のポイントまでを網羅的に解説します。SaaS企業のデータ活用を一段階引き上げるために、ぜひご一読ください。

ETLとは?データ統合の基本概念

ETLとは、「Extract(抽出)」「Transform(変換)」「Load(格納)」の3つの工程を指す、データ処理の基本的なプロセスです。複数のシステムに散らばるデータを一元管理し、分析や活用しやすい形に整えるための手段として、多くの企業が導入しています。

たとえば、マーケティング部門がHubSpot、営業部門がSalesforce、カスタマーサポート部門がZendeskを使用していたとします。それぞれのツールには、リード情報、商談進捗、問い合わせ履歴といった重要なデータが蓄積されています。しかし、これらが別々に保存されているだけでは、顧客の全体像を把握するのは困難です。

このような状況を打破するのがETLです。各ツールからデータを「抽出」し、必要な情報を残して構造を整え「変換」し、最終的に統一されたデータベースに「格納」します。これにより、企業全体でのデータ共有・活用が可能となり、たとえば「マーケティング接触履歴とサポート状況をもとに解約リスクを予測する」といった高度な分析も可能になります。

なぜサイロ化が起こるのか

サイロ化とは、部門やプロダクトごとにデータが閉じてしまい、全体で活用できない状態を指します。特にSaaSを導入している企業において頻発する現象です。

原因の一つは、部門ごとに異なる業務要件があるため、最適なツールを個別に導入してしまう点です。たとえば、マーケティング部門は広告やリード管理に強いツールを、営業はCRMを、カスタマーサクセスはチャットツールやFAQシステムを利用するといった具合です。

さらに、SaaSの特性上、導入は容易である反面、ツール同士の連携が不十分なケースが多くあります。データ設計や連携が構築されていないと、情報の受け渡しは属人的になり、最悪の場合はExcelなどで手作業管理されることになります。

このような状態が続くと、「どの情報が正しいのか」「誰がどのデータを持っているのか」が不明瞭になり、業務の非効率化や意思決定の遅れが生じます。サイロ化の解消には、技術的対応と組織間の情報共有体制の構築が求められます。

ETLでサイロ化をどう防げるのか

ETLを導入することで、サイロ化したデータを一つの流れに統合し、部門横断でのデータ活用が可能となります。特に複数のSaaSを利用している企業においては、その効果が顕著です。

まず、抽出(Extract)では、APIやCSVなどを活用し、各SaaSから必要なデータを自動的に取り出します。次に変換(Transform)では、重複除去、形式統一、顧客IDによるデータ紐付けなどを行い、分析に適した構造へと加工します。最後に格納(Load)で、BigQueryやRedshiftなどのDWH(データウェアハウス)に集約します。

このようなプロセスにより、「商談成約に至った背景にどのようなマーケティング施策があったか」「サポートに頻繁に問い合わせる顧客の傾向は何か」といった分析が可能になります。結果として、営業戦略の精度向上やLTVの最大化など、部門横断での成果向上につながります。

ETLは単なるツールではなく、企業全体の情報活用体制を整備するための基盤であるといえるでしょう。

企業におけるETL活用事例

実際にETLを導入し成果を上げているSaaS企業は少なくありません。たとえば、国内で急成長中のあるスタートアップ企業では、マーケティング、営業、カスタマーサクセス、プロダクトチームがそれぞれ異なるツールを使用していました。

各部門ではKPIを管理できていたものの、顧客単位でのLTVや継続率、クロスセルの全体像が見えにくい状況でした。そこで、ETLツールを導入し、各ツールからデータを抽出・変換し、BigQueryに集約。BIツールで可視化することで、全社で統一されたデータへのアクセスが可能になりました。

その結果、「LTVの高い顧客は導入初期にどんな行動をしていたか」といった分析が行えるようになり、オンボーディングプロセスの改善やチャーン率の低下に成功しました。GUIベースで操作できるETLツールを選んだことで、非エンジニアでも運用できた点も成功のポイントでした。

ETLツール選定のポイントと注意点

ETLツールを選定する際は、いくつかの重要なポイントがあります。

・自社が利用しているSaaSとの連携性
・ノーコード・ローコードで操作可能かどうか(非エンジニアの活用可否)
・データ更新頻度や容量、セキュリティ対応の柔軟性
・PoCでの動作検証のしやすさ

特に、個人情報や機密情報を扱う場合は、データのマスキングや保存先サーバーの地域(法令対応)についても確認が必要です。PoCの実施を通じて、自社のニーズに合うかどうかを見極めることが成功の鍵です。

まとめ

ETLは、SaaS企業が抱える「データのサイロ化」という大きな課題を解決する鍵です。各部門・各ツールに点在するデータを統合し、組織全体で一貫したデータ活用ができる体制を築くことで、業務の効率化やKPI改善、意思決定のスピードアップにつながります。ETLの導入は、単なるツール導入ではなく、組織の情報基盤改革の第一歩となるでしょう。

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青山 俊彦

SaaSビズサイド(セールスやカスタマーサクセス、インサイドセールス、マーケ、企画領域)の転職支援が得意な人材エージェントです。採用や転職についてお気軽にご相談を!趣味は釣り。長野県安曇野市出身。

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