
SaaS企業が市場を拡大するうえで、直販と代理店の両方を活用することは非常に有効な戦略です。しかし、その裏には「チャネルコンフリクト」という顧客の奪い合いや営業効率の低下を招くリスクが存在します。本記事では、チャネルコンフリクトの主な原因や具体的なケーススタディ、組織や個人に与える弊害、そして効果的な解決策について詳しく解説します。
チャネルコンフリクトとは何か?
チャネルコンフリクトとは、SaaS企業が直販と代理店のチャネルを併用する中で、同じ顧客に対して異なる営業アプローチが重なり、摩擦が生じる現象を指します。
例えば、ある見込み顧客に対して、直販担当者と代理店がそれぞれ独立して営業活動を行うことで、顧客が混乱したり、社内で売上の帰属を巡って争いが起きたりすることがあります。チャネル戦略を拡大させるには避けて通れない課題であり、適切なマネジメントが求められます。
主な原因と発生パターン
チャネルコンフリクトは以下の3つの要因で発生しやすくなります。
・目標と役割の不一致
直販チームは高い利益率の直契約を重視し、代理店は数多くの導入実績を追います。この目標の違いから、どの顧客にアプローチするべきかで競合が起こります。
・価格設定のズレ
代理店がディスカウントを重視する一方で、直販は柔軟な価格設定ができるため、価格差で顧客を奪い合う事態が発生するケースもあります。
・情報共有の不足
SFAやCRMが未整備だと、同じ顧客に重複して営業することが多くなります。リード情報がブラックボックス化され、結果的に社内外で無駄な対立が起きやすくなります。
具体的なトラブル事例
SaaS企業では実際に以下のようなトラブルが発生しています。
・ケース1:ある顧客がウェブサイトから資料請求した一方、普段付き合いのある代理店にも相談。結果、直販と代理店の2経路から提案を行い、顧客が混乱。
・ケース2:直販が特別価格を提案した顧客に、代理店が通常価格で提案。直販提案が破談し、企業は収益性の低い契約を強いられる結果に。
・ケース3:代理店経由で契約した顧客がサポート体制に不満を持ち、顧客満足度が大きく低下。対応責任の所在が不明確で、クレーム処理にも時間を要してしまった。
このような事例は、企業ブランドや顧客の信頼にも直結するため、決して軽視できません。
個人の評価・モチベーションへの影響

チャネルコンフリクトは、営業担当者の目標達成や評価にも悪影響を及ぼします。
直販担当者が苦労して関係構築した顧客が、代理店の割安提案で契約を決めてしまうと、売上目標が未達になるばかりか、モチベーションも低下します。
特に成果主義が色濃いSaaS営業組織において、評価の不透明さは深刻な問題を引き起こします。営業担当者の努力が正当に評価されないと、報酬体系への不信感や組織に対するエンゲージメントの低下を招きます。
また、インセンティブ制度がチャネル間で整合されていない場合、直販と代理店の双方が「自分の利益のために顧客を囲い込む」行動に走りやすくなります。結果として、顧客満足度やクロージング率の低下につながり、チーム全体の生産性が損なわれます。
こうした問題は個人の問題に留まらず、営業組織全体の文化や離職率にも影響を与えるため、企業は早期の対処が求められます。
企業がとれそうな対策は?
チャネルコンフリクトを最小限に抑えるには、企業としての明確な方針と制度が不可欠です。
・チャネルポリシーの明確化
どの顧客層を直販・代理店が担当するかを定義することで、役割の重複を避ける。
・価格設定ルールの統一
ディスカウントの裁量に差が出ないよう調整し、価格による競合を防止。
・CRMやSFAの活用
リード情報やアプローチ履歴を一元管理し、営業活動の透明性を高める。
・評価制度の見直し
チャネル間連携への貢献も評価指標に加えることで、協力体制を築く。
・チャネルマネージャーの設置
直販と代理店の調整役を担う専任ポジションを設けることで、現場レベルの対立を解消する。
・営業ガイドラインの整備
チャネル憲章やドキュメントを明文化し、全チャネルにおける行動指針を共有する。
これらの取り組みを段階的に導入することで、チャネル間の摩擦を抑え、より持続的な成長を実現できます。
まとめ
SaaS企業におけるチャネルコンフリクトは、顧客との関係性、営業効率、さらには組織文化にまで影響を及ぼす重要な課題です。直販と代理店の役割を明確にし、共通のルールと目標を設定することで、衝突を未然に防ぐことができます。さらに、組織全体で透明性のある営業活動と、協力的な文化を育むことが長期的な成長につながります。
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