コンパウンドスタートアップ戦略は、SaaS業界で新たなアプローチとして注目されています。本記事では、この戦略の概要と特徴を紹介し、国内のSaaS企業でこの戦略を実践しているLayerXやSmartHRの具体例を取り上げます。従来の戦略との違いや成功の要因についても詳しく解説し、読者の皆様に有益な情報を提供します。
コンパウンドスタートアップ戦略とは?
コンパウンドスタートアップ戦略は、SaaS企業が複数のプロダクトやサービスを展開し、成長を図るアプローチで、発祥はアメリカ。2022年から2023年にかけて国内でもこの戦略の存在が知られるようになりました。
コンパウンドスタートアップ戦略は単一のプロダクトに依存せず、リスクを分散しながら収益を多様化することを目的としています。市場の変動に柔軟に対応し、異なる顧客ニーズに応えることができる点が特徴です。この戦略は、多様な収益源を持つことで企業の安定性を高め、持続的な成長を実現します。
従来のSaaS戦略との違い
従来のSaaS戦略は、一つのプロダクトを市場に投入し、そのプロダクトの改良や機能追加を通じて顧客満足度を向上させることが中心でした。これに対し、コンパウンドスタートアップ戦略は、複数のプロダクトラインを展開することで、クロスセルやアップセルの機会を増やし、リスクを分散させます。
また、顧客先部門ごとの課題に集中してプロダクトの展開するのではなく、顧客先各部門に共通するデータを中心にサービスを開発する特徴もあります。このような背景からサービス開発の基盤が強く、新たな市場や顧客ニーズに迅速に対応できるため、変化の激しい市場環境でも柔軟に対応できる点が大きな違いです。
コンパウンドスタートアップ戦略のメリット
コンパウンドスタートアップ戦略の最大のメリットは、リスクの分散です。複数の収益源を持つことで、単一のプロダクトの失敗が企業全体に与える影響を最小限に抑えることができます。
また、異なる顧客層にアプローチできるため、マーケットシェアの拡大が期待できます。プロダクト同士のシナジー効果により、顧客満足度の向上や新たな収益機会を創出することも可能です。さらに、企業のブランド力を強化し、市場での競争力を高めることができます。
コンパウンドSaaSの特徴的なサービス展開
コンパウンドスタートアップの提唱者として知られるアメリカのHRTech企業Ripplingは、この戦略を具体化したサービス展開で注目を集めています。同社のサービスには以下のような特徴があります。
複数プロダクトの同時提供
Ripplingは、給与計算、福利厚生、IT管理、従業員データの一元管理など、多岐にわたるサービスを一つのプラットフォームで提供しています。このように多様なプロダクトを同時に展開することで、顧客の複数の課題を解決する「ワンストップソリューション」として機能しています。
全てのプロダクトが同じデータ基盤を持つ
Ripplingの全プロダクトは、統一されたデータ基盤を共有しています。これにより、各プロダクト間でデータの同期や情報の共有がスムーズに行えるため、顧客にとっての使いやすさが格段に向上します。
プロダクト同士がシームレスに連携
データ基盤の共有により、各プロダクトがシームレスに連携します。例えば、採用された従業員のデータが自動的に給与計算や福利厚生システムに反映される仕組みが整備されています。この統合性が、企業の管理業務の効率化を実現しています。
これらの特徴により、Ripplingはクライアント企業にとって導入のハードルを下げ、全体的な業務効率の向上に寄与しています。同社の収益が向上している背景には、複数のサービスをまとめて利用してもらうことで得られる「契約単価の上昇」があります。特に、顧客が一つのプロダクトを採択した後、他のプロダクトにもスムーズに移行できる設計がクロスセルの促進につながっています。
国内事例1:LayerXの成功事例
LayerXは、コンパウンドスタートアップ戦略を実践して成功を収めている国内SaaS企業の一例で、コンパウンドスタートアップを世に広めた立役者ともいえる存在です。各事業が独立して利益を生むだけでなく、相互に連携することでシナジー効果を発揮し、企業全体の競争力を高めています。
特に新技術の導入に積極的であり、市場の変化に迅速に対応するための柔軟な開発体制を整えている点が特徴です。これにより、同社は多様な顧客ニーズに応えつつ、持続的な成長を実現しています。同社は、以下の主要事業を展開しています。
- バクラク事業:請求書処理や経費精算、法人カードの支出管理を一本化するサービス「バクラク」を提供し、電子帳簿保存法やインボイス制度にも対応しています。
- Fintech事業:資産運用の効率化を目指し、預金のまま活用されない資産を経済活動に還流させる取り組みを行っています。
- AI・LLM事業:AIと大規模言語モデルを用いて、企業や行政の文書処理を効率化するソリューションを提供しています。
国内事例2:SmartHRの成功事例
SmartHRは、コンパウンドスタートアップ戦略を採用して成功を収めている国内SaaS企業の一例です。同社は、労務管理や人事データの一元管理、タレントマネジメントなど、複数のプロダクトを展開し、広範な顧客基盤を築いています。
プロダクト間のシナジーを活用し、クロスセルやアップセルを推進することで収益を最大化しています。また、本体、グループ会社を含めた新市場への迅速な対応と柔軟な開発体制を整えているため、競争力の源泉となっています。同社の主なサービスには以下のものがあります。
- データ管理と可視化:企業の労務手続きの負担を軽減し、組織の生産性向上に寄与
- 労務管理:入社手続き、雇用契約管理、年末調整、マイナンバー管理、給与明細のデジタル配信
- タレントマネジメント:採用管理、人事評価、スキル管理、従業員サーベイ
- ペーパーレス化と自動化:従来の手作業業務を大幅に削減し、時間とコストを節約
まとめ
この記事では、コンパウンドスタートアップ戦略の概要と特徴、従来のSaaS戦略との違いについて解説しました。また、LayerXやSmartHRなどの国内SaaS企業の具体例を通じて、この戦略のメリットと成功要因を示しました。コンパウンドスタートアップ戦略は、複数のプロダクトを展開することでリスクを分散し、安定した成長を実現する有効な手段です。今後、SaaS企業がこの戦略をどのように活用するかに注目が集まります。