
デジタル化が加速する現代において、企業が抱えるIT資産は急速に増加し、サイバー攻撃のリスクも高まっています。こうした中で注目を集めているのが「Attack Surface Management(アタックサーフェスマネジメント、以下ASM)」です。本記事では、ASMの基本概念から企業における導入のメリット、実践方法までを網羅的に解説します。
ASMとは何か?その基本概念と背景
ASM(Attack Surface Management)とは、企業が保有するIT資産のうち、外部からアクセス可能な領域、すなわち「アタックサーフェス(攻撃対象領域)」を可視化・管理する取り組みを指します。アタックサーフェスには、Webサイト、クラウドサービス、サーバー、IoT機器などが含まれます。これらは常にインターネットに接続されているため、サイバー攻撃の対象となりやすいのです。
ASMは、これらの資産を継続的に監視し、脆弱性や設定ミスといったリスク要因を早期に発見し、対処することを目的とします。特に近年のリモートワークやDX推進によってIT環境が複雑化したことで、ASMの重要性が一層高まっています。
なぜ今、ASMが注目されるのか
ASMの注目度が高まっている背景には、サイバー攻撃の高度化と多様化があります。従来のセキュリティ対策では、社内ネットワークや特定のシステムに限定した保護が中心でした。
しかし現在では、クラウドベースのSaaS、個人所有のデバイス、外部委託先のサービスなど、管理が行き届かない範囲にも企業のIT資産が広がっています。これにより、「シャドーIT」と呼ばれる、企業が認識していないシステムやサービスが攻撃対象となるケースが増加しています。
ASMは、これら見落とされがちなリスクを浮き彫りにし、攻撃の足がかりを事前に排除する役割を果たすのです。2020年代に入り、各国の政府機関や大手企業がASMをセキュリティ戦略の一環として導入し始めていることからも、その重要性がうかがえます。
ASM導入のメリットと得られる効果

ASMを導入することで、企業は多くのセキュリティ上のメリットを享受できます。
・全社的なIT資産の可視化が可能になる
・脆弱性の早期発見と迅速な対応が実現する
・セキュリティ監査や法令対応(GDPR、個人情報保護法など)が強化される
・サイバー攻撃による損失リスクが軽減され、企業の信用維持に貢献する
ASMツールはリアルタイムで資産をスキャンし、問題のあるポイントを可視化してくれるため、対応のスピードと精度が大きく向上します。
ASMの実践手法と主要ツールの紹介
ASMの実践には、以下の3ステップが重要です。
・資産の発見:サブドメインスキャンやIP調査などにより、全IT資産を洗い出す
・リスクの評価:検出された資産に潜む脆弱性や設定ミスを診断
・継続的な監視と対応:単発の診断ではなく、ASMは常に動的な対応が求められる
代表的なASMツールとしては、以下が挙げられます。
・Randori
・CyCognito
・Palo Alto Networks Cortex Xpanse
これらは資産の可視化からリスク通知、レポート作成までを自動化でき、自社の規模や業態に応じた選定が重要です。
SaaS企業におけるASM導入のポイント
SaaS企業にとってASMは、サービスの信頼性を支える基盤ともいえる存在です。クラウド上で顧客データを管理するSaaS企業では、セキュリティ事故がブランド毀損につながるリスクがあります。
・外部公開資産(サブドメイン、APIエンドポイントなど)の洗い出し
・開発・インフラチームとの連携によるASMのCI/CDパイプラインへの組み込み
・アジャイル開発への対応としてASMプロセスの自動化
こうした取り組みによって、SaaS企業は開発スピードを損なわずにセキュリティレベルを高く保つことができます。
まとめ
ASM(Attack Surface Management)は、複雑化するIT環境におけるセキュリティ管理の要として急速に注目を集めています。外部公開された資産を可視化し、脆弱性を早期に発見・対応することで、企業のセキュリティリスクを大幅に低減できます。特にSaaS企業においては、ASMの導入がサービスの信頼性維持に直結するため、戦略的に取り組むことが求められます。