「人事×ビジネス」を横断して見つけた、“点”と“面”で描くキャリア論

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SaaSやスタートアップなど成長著しい産業において、コーポレート×ビジネスサイドや、開発×ビジネスサイドなどの複数のキャリアを持つ人材の存在は、年々その重要性を増しています。株式会社プレイドでHRBP TeamのTeam Headを務める宮本氏は、人事として10年の経験を積んだのち、あえてビジネスサイドへ転身。その後、再び人事の立場に戻り、今は人・組織の領域を横断しながら活躍しています。

人事キャリアの先に、なぜ“飛び地”を求めたのか。自身のキャリアを面積として捉えるその思考には、自分らしい成長の軸を見つけるヒントが詰まっています。

人事キャリアから未知の領域へ踏み込む

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新卒で入社したエン・ジャパンでは、最初は法人営業をしていました。当時商材として扱っていたのは教育研修や評価制度の設計といった人材開発・組織開発領域のサービスです。その後、社内異動で人事企画部門へ。主に新卒から幹部までの研修や、一部評価制度の運用にも携わりました。

次に転職したのが、社員60名規模だったサイバーエージェントFX。ここでは前任者の産休交代のタイミングで入社し、実質“ひとり人事”のような立場でした。制度も仕組みも整っていない状態で、採用・労務・育成・評価と、ほぼすべての領域を自分一人で担う経験をしました。

その後ランサーズを経て、ウェルスナビへ。創業から間もないフェーズで人事機能がなく、1人目人事としてジョインしました。20名ほどだった組織が、私がいた3年で120名にまで成長しました。

今思うと、過去の自分の人事キャリアは「企業フェーズ」と「職域」のマトリクスを埋めていくようなものだったなと思います。

エンタープライズ企業の人事企画ポジションから、大企業子会社での幅広い人事実務、スタートアップでのフルスタック人事など、マトリクスにしたら人事のキャリアは縦軸も横軸もだいたい埋まってきたんです。10年くらい人事をやって、ある程度どんな規模・フェーズでも対応できる引き出しはできた。逆に言うと、人事キャリアのマトリクスの空き枠がなくなってきたんですよね。

そのタイミングで「今の延長線上で経験を積み続けても、自分の中で大きな成長はないかもしれない」と感じたんです。成長曲線の鈍化という感覚でしょうか。

もちろん、「さらに大きい企業でピープルマネジメントに特化する」とか「特定領域を深掘りする」という方向性もある。でも、自分としてはそれよりも、今までと“違う点”に自分を置いてみたくなった。今までと似たような延長線ではなくて、もっと遠くて未知の領域。

そんな場所に飛び込んだ方が、自分のキャリアの面積がより大きく広がる気がしたんです。

人事の延長線にはなかった“遠い点”。でも、そこが面白かった

そうなんです。当時、いくつかの会社からオファーもいただいたのですが、その多くは「人事×⚪︎⚪︎」という提案でした。

でもプレイドは、「ビジネスサイドど真ん中で100%やってみよう」という提案。人事の延長線じゃなくて、カスタマーサクセス職でのオファー。それは、当時の自分のキャリアからは完全に“違う点”でした。

まったく未経験で、自分からは出てこないような選択肢。でも、そこが逆におもしろかったんです。

正直に言うと、プレイドに出会うまではマーケティング領域の事業自体に、あまり関心がありませんでした。「売る」って手段でしかないと思っていたので。

でも、プレイドのプロダクト「KARTE(※)」に触れてみたら、良い意味でギャップが大きかった。KARTEって「売るため」じゃなくて「顧客体験の価値を高める」ツールなんです。

たとえば、ホテルで心地よい接客を受けたときや、洋服を買うときの店員さんとの楽しい会話とか。単にサービスを利用したり、商品を購入すること以上に、コミュニケーションを通して、その場の顧客体験に価値を感じてブランドのファンになっていく、というのはあると思います。

KARTEは、顧客体験の価値向上をデジタルで実現することを目指しています。コミュニケーション自体が価値であり、マーケティング活動自体が体験価値であることを大切にしていて、その世界観がすごくしっくりきました。

実際、カスタマーサクセスの仕事も想像以上に楽しかった。ビジネスって、お客様と自社がWin-Winであることがベストなわけですが、それを導き出すためのコミュニケーションや駆け引きがすごく楽しいんですよね。

そういえば、1社目のエン・ジャパンの営業時代、事業部歴代No.1の営業成績を出したことがあるんですよ。忘れてましたけど、自分ってこういった顧客交渉得意だったんだなということも思い出しました(笑)。

※「KARTE」は、株式会社プレイドが提供するプロダクト。ウェブサイトやアプリを利用するお客様の行動をリアルタイムに解析して一人ひとり可視化し、個々のお客様にあわせた自由なコミュニケーションをワンストップで実現するCX(顧客体験)プラットフォーム。

キャリアの転機は、“踏みとどまった”ときに訪れた

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プレイドに入ってしばらくして、カスタマーサクセス組織として少しタフな時期があったんです。

自分自身もカスタマーサクセスとして3年の経験を積んで、次のキャリアステップを考えていたタイミングだったんですけど、「ここが踏ん張りどころかもしれない」とも思いました。カスタマーサクセスの業務をやりながら人事領域も兼務して、組織の立て直しにトライする。

成功するかどうかは正直分からなかったですが「カスタマーサクセスの採用・育成を本気でやる」と決めて、カスタマーサクセス組織の一つのチームのマネージャーと兼務しながら動き出しました。私が取り組むまでは半年くらい採用ゼロの状態。そこから半年で15人、1年で30人、2年で50人ほどの仲間が採用できました。

業績も上向いていき、採用に関わったカスタマーサクセス組織も以前より安定しました。そうした時に、自分が採用したメンバーたちに対して、改めて責任感を覚えるようになったんです。一言で表現すると、愛社精神みたいなものだと思います。

「もう自分のキャリアだけを考えているフェーズじゃないな」というのが、感情として湧いてきた。そんな中で当時のカスタマーサクセスの上司であり、現在のCPO(Chief People Officer)との1on1で「人事領域一本でやってくれないか」と声をかけてもらって。これはそういうタイミングなんだ、と思いました。自分のキャリアとか成長とかを超えて、「この会社で、この人たちと、勝ちたい」っていう想いが芽生えました。この気持ちの変化は自分にとってすごく大きかったですね。

“どちらにも戻れる”自信が、迷わず進む力になった

大きかったのは、「キャリアをどう捉えるか」の意識ですね。プレイド入社前までは、どちらかというと「個人のキャリアをどう積むか」にフォーカスしていたんです。

でもプレイドでいろんな挑戦を経験する中で、だんだん「自分のキャリア」よりも、「この組織、この会社に対して自分は何ができるか」に重心が移っていった感覚があります。

数年かけて取り組むようなチャレンジは、腹が決まらないとやれないと思うんです。単に“個人のキャリアアップ”という観点だけでは選びにくい。こういったことにチャレンジできるようになったのは自分の中での大きな変化です。また、そこに挑むことでキャリアの幅が広がっていると思います。

やってよかったなと思いますね。「もし人事が無理でもビジネスサイドに戻ればいいや」とも思えるようになった。だからこそ、腹をくくって挑戦できる。逆説的だけど、それがチャレンジの源になっている気がします。

また、ビジネスサイドの経験があったからこそ、人事の立場でもビジネスに向き合えている感覚があります。現場と対等に話せるというか、「現場を分かってる人事」でいられることが、自分の中での自信にもなっています。

まずは、子会社を含むプレイドグループの人事組織をさらに強くしていくことを決めています。ここに向けては、数年間は取り組もうと腹が決まっています。

その先はまだ明確には決めていないですが、たとえばHR Techのプロダクトマネジャーとか、プレイドグループでM&Aが加速していくとしたら、小会社の経営などもチャンレンジングで面白そうだなと。どこかのタイミングでまた“違う点”を打つ可能性はあると思っています。

点を重ねて面を広げ、自分らしいキャリアを描いていく

そうですね。一つ挙げるとすれば、「点を一つにしない」という考え方でしょうか。

よく“1万時間やればその道のプロになれる”なんて言われます。1万時間は平日に1日10時間を費やせば4年ほどで到達します。私にとってのそれは最初の4年間の法人営業キャリアであり、その後の10年間の人事キャリアです。未上場スタートアップの勤務経験も5年あるので、法人営業・人事・未上場スタートアップという複数ドメインにおいて、ある程度自信を持って語れる経験と感覚を持てていると思います。

そこまでやると、一定のプロフェッショナルな土台が持てます。その土台を持った上でまったく“違う点”を遠くに打って飛び込んでみる。私でいうカスタマーサクセス職やマーケティング領域のSaaSといった未知の領域に飛び込んでみるような経験ですね。

そんな風に自分にしかない“組み合わせ”を作っていく。出来上がった土台と新たな点を繋げ、経験をさらに積むことでキャリアの「面」が広がっていきます。

この「面」が広がっていくと、誰にも成し得ないオリジナルのキャリアが出来上がっていくと思います。そして、その先には選べる選択肢も、描ける未来も自然と増えてくる。

もちろん、新しい点に飛び込むのは勇気がいりますし、うまくいくかなんて分からない。でも、プロになれるまで時間を注ぎ込んだ「戻れる場所」があると思えると、意外と大胆になれるんですよね。

私自身も、これからまた新しい点を打ちながら、この“面”をもっと広げていけたらいいなと思っています。

◼︎プロフィール
宮本 和典(みやもと・かずのり)
2007年、エン・ジャパンに新卒入社。法人営業として教育・評価制度設計領域の商材を扱い、その後、人事企画部門へ異動。以降、サイバーエージェントFX、ランサーズ、ウェルスナビの3社で1人目人事を含む人事責任者を歴任。2020年4月、プレイドに入社。カスタマーサクセス組織のTeam Headを経て、現在はHRBP TeamのTeam Headとしてビジネス部門の人事領域全般を担う。
青山 俊彦

SaaSビズサイド(セールスやカスタマーサクセス、インサイドセールス、マーケ、企画領域)の転職支援が得意な人材エージェントです。採用や転職についてお気軽にご相談を!趣味は釣り。長野県安曇野市出身。

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