プロダクトや機能の差別化が難しくなる中、成果を出す営業・カスタマーサクセスには「業界に根ざした提案力」が求められています。顧客に対して深く刺さる提案を行うには、業界リテラシーを高め、業務に根ざした導入理由を明確にし、再現性のある支援体制を構築する必要があります。
本記事では、「インダストリーインサイト」「ユースケース深掘り」「業務マッピング」「ベストプラクティス共有」などを活用し、バーティカルセールス体制を実現する方法を紹介します。
インダストリーインサイトの内製化がなぜ重要なのか
インダストリーインサイトとは、特定業界に関する知識や慣習、構造変化、業界課題、トレンドなどの情報を体系的に把握・蓄積することです。これを内製化することで、顧客との対話の深さが増し、的確な提案が可能になります。
顧客から見れば、業界構造や商習慣、法規制を理解せずに話す営業は「自社の事情を理解していない」と映ってしまいます。一方で、「この業界ではこうした流れが一般的ですよね」「最近はこの制度改正の影響で課題が出ていますよね」といった会話ができると、信頼獲得につながります。
内製化に向けた実践ステップは以下の通りです。
・業界ニュースや法改正情報、業界団体の資料を定期的に収集し、Notionやスプレッドシートでライブラリ化
・各業界に「ナレッジオーナー」を設定し、毎月の情報更新とチーム共有を責任持って実施
・チーム全体で月次「業界インサイトの共有会」などを開催し、成功事例や現場の声を交えて実践知を共有
このように、インダストリーインサイトを“属人化”ではなく“チーム知”として扱うことで、営業・サクセスの再現性が飛躍的に高まります。
ユースケース深掘り:業務×SaaS導入理由の構造化
顧客の業務に対して、なぜそのSaaSが導入されるのかを明確に構造化するのが「ユースケース深掘り」です。これは、「どの業務に」「どんな課題があり」「どのような変化を生むか」という導入理由を明確にするプロセスです。
例えば、営業管理SaaSであれば、「週次の営業会議準備が煩雑」「Excelで集計」「営業数値がリアルタイムで見えない」という課題に対し、「自動ダッシュボード生成により毎週3時間の工数削減」「リアルタイムで営業状況を把握可能」などの変化を示します。
構造化のポイントは以下の通りです。
・現場担当者の業務内容、KPI、抱えているストレスを具体的に言語化する
・SaaS導入前のフローと、導入後の改善フローを比較する
・定量的な改善見込み(時間削減・エラー削減・承認スピードなど)を明示する
・経営層に向けて、戦略目標との関連を提示する
このようなユースケースを営業資料に組み込むことで、顧客に納得されやすい提案が可能になります。
業務マッピング:顧客業務を可視化して課題を見える化する
業務マッピングは、顧客の業務フローを図式化し、どのプロセスに課題があるのかを明確にする手法です。セールスやサクセスが導入前からこの作業を実施することで、顧客との認識齟齬を防ぎ、スムーズな導入支援が可能になります。
具体的な実践ステップは以下の通りです。
・スタートからゴールまでの業務フローを時系列で記載
・各プロセスに「誰が」「何を」「どのように」行っているかを記載
・ボトルネックを色付けして明示(例:手入力が多い、承認遅延など)
・SaaSによって改善できるポイントを明記
・KPI改善やリードタイム短縮など、成果指標を数値で提示
この業務マップは、提案の説得力を高めるだけでなく、導入後の活用支援や継続利用にも役立ちます。
ベストプラクティス共有:成功事例をチームで活かす手法

業務マッピングやユースケースを蓄積することで、業界ごとの成功パターンが見えてきます。これをチームで活かす仕組みが、営業力の底上げに直結します。
成功事例共有のポイントは以下の通りです。
・業界、課題、解決策、導入効果、工夫点を含む事例テンプレートを作成
・ナレッジライブラリ(NotionやGoogle Driveなど)で一元管理
・月次の「ケーススタディ共有会」で営業担当が背景や工夫を共有
・失敗事例も積極的に共有し、改善学習の材料に
・ベストプラクティスに基づいたスクリプトや提案資料を再利用可能に
こうしたナレッジの仕組み化により、属人性の排除と新人育成の加速が可能になります。
バーティカルセールス体制とセールスイネーブルメントの導入
バーティカルセールス体制とは、業界ごとに営業やサクセスチームを分け、業界知見を専門的に蓄積・活用する体制です。ただし、体制構築だけでは不十分であり、セールスイネーブルメントの導入が不可欠です。
具体的な施策は以下の通りです。
・業界ごとのオンボーディング資料を整備
・成功事例やユースケースをカテゴリ別に整理・展開
・定期的な勉強会やロールプレイの実施
・営業支援ツール(CRMテンプレ、営業資料など)を業界ごとに最適化
これらの取り組みを通じて、「顧客の言葉で話せる営業」が育ち、成果の再現性が向上します。
まとめ
本記事では、SaaS営業やサクセスが「業界特化型」に進化するために必要な5つの要素を解説しました。「インダストリーインサイトの内製化」「ユースケース深掘り」「業務マッピング」「ベストプラクティス共有」「バーティカル体制+セールスイネーブルメント」を組み合わせて仕組み化することで、単なる機能提案ではない“業務ドリブン”の営業体制が構築されます。競争が激化する中、顧客の業務と業界を深く理解する力が真の差別化要因となる時代です。