
ビジネスパーソンのキャリア形成において、最近よく耳にする「リスキリング」「リカレント教育」「アップスキリング」。それぞれの意味を正しく理解していないと、自分に必要な学びの選択を誤る可能性があります。この記事では、これら3つの言葉の違いを明確にし、自身のキャリアステージに応じた学びの取り入れ方について解説します。
リスキリングとは何か?再定義されるスキルの意味
リスキリング(Reskilling)とは、主に「新たな職種や業務に対応するために、まったく異なるスキルを習得すること」を意味します。DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、多くの企業が業務プロセスを変革し、それに伴って新しい職種が生まれています。こうした変化に対応するために、従来のスキルを捨て、新たに学び直す動きがリスキリングです。
たとえば、これまでカスタマーサクセスだった方がデータアナリストを目指すために、PythonやSQLといったプログラミング言語を学ぶケースが典型です。リスキリングは、既存のスキルの延長線上ではなく、職種そのものをシフトさせる目的で行うため、キャリアチェンジを志す人にとって重要な選択肢です。
リスキリングは政府も注目しており、2022年10月から日本政府の総合経済対策の一環として、経済産業省・厚生労働省などがリスキリング支援施策を強化しています。中長期的に職業の在り方が変わる中、自ら市場価値を保つうえで欠かせない取り組みと言えるでしょう。
リカレント教育の役割とは?学び直しの本質に迫る
リカレント教育(Recurrent Education)とは、「学校を卒業した後も、必要に応じて学び直しを継続する教育システム」を指します。1968年にスウェーデンで政府委員会が設置され、1969年のOECD会議で教育相オロフ・パルメ氏により提唱されました。1970年代には広く普及し、現在の生涯学習の原型となっています。
この考え方の背景には、急激な社会変化やテクノロジーの進化があります。大学卒業後に身につけた知識だけでは、長いキャリアを乗り越えられなくなった現代において、定期的な学び直しが不可欠となっているのです。
リカレント教育は、リスキリングやアップスキリングと異なり、特定のスキル取得だけでなく、広範囲な教養や体系的な知識の習得も含みます。大学院への進学や、長期の専門プログラムへの参加などが含まれる場合もあります。働きながら通える夜間大学やオンライン講座なども、このカテゴリに含まれるでしょう。
リカレント教育は、キャリア形成を一度の学歴や資格で終わらせない「長期的視点」を持つことが重要です。
アップスキリングの目的と効果とは?スキルの磨き直し
アップスキリング(Upskilling)とは、「現在の職種や業務で求められるスキルをさらに高めていくこと」です。リスキリングのように職種を変えるわけではなく、今の仕事で成果を出し続けるためにスキルのレベルアップを図るアプローチです。
例えば、すでにマーケティング部門で働いている方が、データドリブンな意思決定を強化するためにGoogle Analyticsの上級機能を学んだり、デザインツールの活用方法を深めたりすることはアップスキリングの典型です。変化する業務要件に応えるための手段として、企業内研修や外部セミナー、eラーニングなどが活用されています。
アップスキリングのポイントは、「今の自分の専門性を磨くこと」にあります。すでに築き上げてきたキャリアの上に積み上げていくイメージで、自信を持って専門領域を深めたい人にとって理想的な学び方です。
企業にとっても、社員のアップスキリングは生産性向上や離職防止の観点から重要であり、研修予算を拡大する動きが広がっています。
それぞれの違いと適した学び方を整理しよう

リスキリング、リカレント教育、アップスキリング。どれも「学び直し」をテーマにした言葉ではありますが、目的とアプローチが異なります。
・リスキリング:キャリアチェンジを前提に、新たなスキルを習得する
・リカレント教育:生涯学習の一環として、定期的に知識や教養を更新する
・アップスキリング:現在の職務をさらに高いレベルで遂行するためにスキルを強化する
たとえば、今の職務に手ごたえを感じているが、さらに上のポジションを目指したいという方にはアップスキリングが適しています。一方で、将来的に異業種や別職種に挑戦したいという方は、リスキリングに時間を投資する必要があります。
リカレント教育は、どのタイミングでも取り入れられる汎用的な概念であり、今後の変化に対応するための「学びの姿勢」を表しています。
ビジネスパーソンにとっての最適な選択とは?
結論として、どの学び方が正解かは、その人のキャリアビジョンや現在の状況によって異なります。今の職務に満足している人はアップスキリング、別の仕事に移りたい人はリスキリング、そして将来の変化に備えたい人はリカレント教育を軸に考えるのが良いでしょう。
重要なのは、どの学び方を選ぶにしても、「自分のキャリアをどのように築いていきたいか」という問いを持ち続けることです。手段としての学びを活かすためには、自分の意思と方向性が伴っていることが不可欠です。
SaaS業界のように技術と市場の変化が激しい領域では、この3つの学びを適切に使い分けることで、長期的に競争力のあるビジネスパーソンへと成長していけます。
まとめ
リスキリング、リカレント教育、アップスキリングはいずれも「学び直し」を意味する概念ですが、目的や内容が異なります。この記事では、それぞれの定義、適用シーン、活用方法について整理しました。自分のキャリアに必要な学びの種類を見極め、主体的に選択することが、これからの時代のキャリア形成において非常に重要になります。
合わせて読みたい
マイクロラーニングとは?短時間学習で成果を出す新常識