
かつては「この道を行けば成功できる」という明確なキャリアパスが存在しました。しかし近年においては転職の頻度、役割の多様化、そして様々な業界の急成長/衰退により、その道筋は見えにくくなっています。いわば、今は“ノースターキャリア”の時代。この記事では、道なき時代に自分の軸をどう築き、どのようにキャリアを歩んでいけばよいのかを、考えてみたいと思います。
明確なロールモデルが消えた理由とは?
これまでの日本企業では「課長→部長→役員」といった明確なロールモデルが存在し、年功序列や終身雇用制度により、キャリアはある程度予測可能でした。しかし、現代はその前提が通用しません。
職種の流動性が高く、市場の変化に応じて新たな役割が次々と生まれるため、「正解」がなくなってきているのです。SaaS業界で例えるなら、営業職においては、インサイドセールスやカスタマーサクセスなど、従来とは異なる職能が急速に台頭しており、営業ひとつをとってもキャリアの歩み方が多様になっています。
そのため、従来の「成功パターン」をなぞることが難しくなり、自分なりの道を模索する必要性が高まっているのです。
今後求められる「仮説思考」とは

このような変化の激しい環境でキャリアを築くには、「仮説思考」が非常に重要になります。仮説思考とは、自分のキャリアに対して「こうすればこうなるのではないか」という仮の見立てを立て、それを小さく実行・検証していく姿勢です。
たとえば、「フィールドセールスからカスタマーサクセスに異動すれば、自分の強みである顧客対応力を生かしやすいかもしれない」といったように、自分のスキルと興味を掛け合わせて小さなステップを踏んでいきます。
成功するかどうかはわかりませんが、その繰り返しの中でしか、自分にフィットしたキャリアは見えてきません。
SaaS企業の文化はこの仮説検証の姿勢と親和性が高く、OKRやスプリントといった手法がそれを象徴しています。キャリアにおいても、同様のアプローチが今後ますます重要になるでしょう。
キャリアの軸は「自分の物語」で語る
ロールモデルが曖昧になる一方で、選考の現場では「あなたはどんな人ですか?」「なぜこの職種を選びましたか?」という問いに明確に答える力が求められています。つまり、キャリアは「構築するもの」だけではなく「語るもの」としての力や歩み方も大事になってきています。
ナラティブ(物語)としてのキャリアを意識することで、転職活動の軸がぶれにくくなります。自分はどんな価値観を持ち、何を大切にして働きたいのか。それを一貫性のあるストーリーに落とし込めるかが重要です。
このためには、過去の経験や成功体験、失敗談を丁寧に振り返り、自分なりの「意味づけ」をしていくことが不可欠です。たとえば「私は常に顧客との対話を通じて価値提供を重視してきた」といった軸があれば、それに沿って職種選びや企業選びができるようになります。
20代の迷子感、30代の焦燥感にどう向き合うか
20代のうちは、「とりあえず3年は同じ会社に」などとアドバイスされ、周囲と比較して焦ったり、キャリアに正解を求めすぎたりしてしまいがちです。一方で30代に入ると、「このままでいいのか」「他社でも通用するのか」といった焦燥感に襲われやすくなります。
このような不安の多くは、「キャリアの羅針盤」が不在であることが原因です。重要なのは、他人と比較するのではなく、自分にとって意味のある選択をしているかどうか。たとえ周囲と違う選択であっても、自分の価値観と整合していれば、後悔しにくくなります。
特にSaaS業界は年齢や年次ではなく、成果や適応力が評価される世界です。焦らず、今の自分にできることを積み重ねることが、最も堅実なキャリア構築になります。
面談で問うべき“キャリアの問い”とは?
転職の面接は、企業側があなたを評価するだけでなく、あなた自身が「自分の仮説を検証する場」として活用すべきです。そのためには、以下のような問いを自分に投げかけておくとよいでしょう。
・この企業で自分はどんな成長ができそうか?
・どのような失敗が許容され、どう学びが促されているか?
・この環境は自分の価値観と整合しているか?
こうした問いは、「なんとなく転職」から脱却し、キャリアを自分ごととして考えるうえで大きな助けになります。また、企業側も「考えている人材」に好印象を抱きやすく、結果として選考通過にもつながりやすいのです。
まとめ
“ノースターキャリア”の時代、SaaS業界では従来の成功モデルに頼れなくなっています。だからこそ、自分なりの仮説を立て、検証し、自分の物語としてキャリアを語ることが求められます。不安定に見える時代だからこそ、柔軟に試行錯誤する姿勢が、最終的に「自分にしかない軸」を築いていくのです。