【グレイナーの5段階企業成長モデル】SaaS企業の成長痛を乗り越える鍵

greinermodel

SaaS業界で働く皆さんの多くは、急成長する企業で日々変化に対応しながら業務に取り組んでいるのではないでしょうか。成長は企業にとってポジティブなことですが、その過程で組織は必ず“成長痛”を経験します。

この記事では、企業成長の過程を体系的に整理した「グレイナーの5段階企業成長モデル」を紹介し、SaaS企業が直面する課題とその乗り越え方について解説します。

グレイナーの5段階モデルとは何か

「グレイナーの成長モデル」は、経営学者ラリー・E・グレイナーが1972年に提唱した、企業成長に伴う変化と課題を体系的に説明するフレームワークです。企業は成長の過程で5つの段階を経て進化しますが、それぞれの段階の終わりには“危機”が訪れます。それを乗り越えることが、次のステージへの鍵になります。

各成長段階と、それに対応する「成長の危機」は以下の通りです。

・創造の段階(Creativity)
 創業者主導で、製品やサービスの創出に注力するフェーズ。組織は柔軟でスピード感がありますが、マネジメントが不在で混乱が起きやすくなります。
 → 指導の危機(Leadership Crisis):経営管理の必要性が高まり、組織の方向性が曖昧になる。

・方向付けの段階(Direction)
 マネジメント体制を整備し、業務のルールや手続きを導入するフェーズ。トップダウンによる運営が中心になります。
 → 自立性の危機(Autonomy Crisis):現場に裁量がなく、オペレーションの硬直化が生じます。

・委任の段階(Delegation)
 各部門やリーダーに権限を委譲し、拡大する組織の管理効率を高めるフェーズ。
 → 統制の危機(Control Crisis):各部門が独立しすぎて、組織全体がバラバラになり、統一感が失われます。

調整の段階(Coordination)
 調整機能やミドルマネジメントを強化し、部門間の連携を促進するフェーズ。
 → 官僚制の危機(Red Tape Crisis):ルールやプロセスが増えすぎて、機動力が失われてしまいます。

・協力の段階(Collaboration)
 チームワークや柔軟な組織運営を重視し、部門横断のコラボレーションが生まれるフェーズ。
 → 飽和の危機(Saturation Crisis):この段階以降は仮説的であり、次なる成長モデルの模索が必要とされます。

成長の5ステージと各段階の危機

各フェーズで企業がどのような課題に直面するのか、もう少し具体的に見ていきましょう。

創造の段階では、創業者のビジョンのもと、スピーディにプロダクト開発や市場開拓が進められますが、やがてマネジメントの不在が課題となり、意思決定の混乱が起こります。ここで求められるのが「指導の危機」への対応です。

方向付けの段階に入ると、組織構造やプロセスが整えられます。一定の管理体制が成果を生みますが、現場に自由がなくなり、硬直化という「自立性の危機」に直面します。

委任の段階では、権限移譲が進み、現場の意思決定スピードが上がる一方、部門ごとの方向性のズレが課題となります。これが「統制の危機」です。

調整の段階では、組織間の連携を強化することで一体感を取り戻しますが、仕組みやルールが過剰になることで「官僚制の危機」に直面します。

そして協力の段階では、柔軟な働き方やチーム主導の文化が醸成され、理想的な組織に近づきますが、やがてマンネリや「飽和の危機」が訪れるとされています。

SaaS企業におけるモデルの具体的な適用例

たとえば、社員数が10〜30名程度のスタートアップでは、創業者自らが営業やプロダクト開発を兼務しながら企業を推進しています。このような企業は「創造の段階」にあり、カオスとスピードが同居しているのが特徴です。

社員が50〜100名になると、役職者の設置や業務フローの整備などが始まり、「方向付けの段階」へ移行します。組織としての一体感を保ちつつ、現場との温度差や硬直化が課題となる時期です。

さらに社員が100〜200名規模になると、営業部、開発部、カスタマーサクセス部などの部門ごとに独立性を持たせ、「委任の段階」に入ります。ただし、縦割り化や情報の断絶が起きやすくなり、「統制の危機」が表面化してきます。

このように、SaaS企業は比較的短期間でこのモデルを一巡することも多く、それぞれのステージでの適切な対応が、企業成長の鍵を握っているのです。

モデルを活用した組織運営とマネジメントのヒント

グレイナーのモデルを活用することで、経営層だけでなく中間管理職や現場リーダーも、組織の現在地と将来の課題を予測する力を養うことができます。

たとえば「方向付けの段階」では、外部から経験豊富なマネージャーを採用するか、既存社員を育成するかといった判断が求められます。また、「調整の段階」では部門横断プロジェクトの設計やミドルマネジメントの育成が重要になります。

モデルを「過去の反省」だけでなく、「未来の設計図」として使うことができれば、先手を打った施策を実行することが可能になります。これにより、成長痛を最小限に抑え、持続的な成長を実現できるのです。

キャリア観点で考える、どのフェーズの企業にいるべきか

このモデルは、個人のキャリア選択にも非常に役立ちます。なぜなら、企業の成長フェーズによって、得られる経験と身につくスキルが大きく異なるからです。

・創造の段階の企業:ゼロからの事業づくりに携われる反面、整っていない環境での柔軟性やスピードが求められます。
・方向付けや委任の段階の企業:組織設計やマネジメント、KPI管理などの仕組み作りに携わることができます。
・調整や協力の段階の企業:大規模な組織の中での部門間連携やナレッジマネジメントなど、より高度な組織運営に関わることができます。

自分がどんなキャリアを築きたいか、どんな成長機会を得たいかによって、選ぶべき企業のフェーズは異なります。モデルをキャリアのコンパスとして活用することで、より納得感のある転職が可能になります。

まとめ

グレイナーの5段階企業成長モデルは、SaaS企業の成長プロセスと課題を予測する強力なフレームワークです。企業フェーズごとの課題とそれに対する戦略を理解することで、組織運営の質を高め、キャリア選択の判断軸にもなります。急成長するSaaS業界だからこそ、このモデルの理解が成功への鍵となるのです。

合わせて読みたい
「生存者バイアス」かかってない?組織の思考が固まらないために必要なこと

青山 俊彦

SaaSビズサイド(セールスやカスタマーサクセス、インサイドセールス、マーケ、企画領域)の転職支援が得意な人材エージェントです。採用や転職についてお気軽にご相談を!趣味は釣り。長野県安曇野市出身。

関連記事