マルチバーティカル戦略とホリゾンタルSaaS・バーティカルSaaSの比較

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SaaS業界で注目される「マルチバーティカル戦略」とは、一つの業界に依存せず、複数の異なる業界に対して同じプロダクトやサービスを提供するビジネス戦略です。このアプローチにより、企業は市場の多様化と成長を図ることができます。本記事では、同戦略の代名詞とも言える国内企業「カミナシ」を例に、マルチバーティカル戦略の具体的な内容と、従来のホリゾンタルSaaSやバーティカルSaaSとの比較を通じて、その独自性を明らかにします。

マルチバーティカル戦略とは?

マルチバーティカル戦略は、ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaS両面の特性を兼ね備えた戦略です。特定の業界に絞らず、複数の業界に共通する課題を解決するサービス展開するのがホリゾンタルSaaSですが、マルチバーティカル戦略は各業界ごとに異なる課題を掘り下げていくバーティカルSaaS特有のアプローチを行いながら、そこで得たノウハウを活かしつつ複数業界にサービスを展開していく流れを取ります。

マルチバーティカル戦略の利点

  • リスク分散:特定の業界に依存せず、複数の市場にまたがるため、経済状況や市場の変化によるリスクが分散されます。
  • ノウハウの蓄積:各業界ごとに異なる細かな課題に対してナレッジが蓄積しやすくなります。
  • 成長機会の拡大:各業界で得たノウハウや成功事例を他業界にも展開することで、成長機会が広がります。
  • 収益の安定化:異なる業界から安定的な収益を得ることができ、収益の一極集中によるリスクが低くなります。

カミナシのマルチバーティカル戦略

国内SaaS企業「カミナシ」は、マルチバーティカル戦略を成功させた代表的な企業です。カミナシは、ノンデスクワーカーというこれまでのSaaS企業が目をつけていなかった市場で現場業務をデジタル化するSaaSを展開しています。同社は当初、食品製造などの業界に特化していましたが、そこで得たノウハウを物流業やサービス業など他の業界にも展開しています。

カミナシの成功ポイント

カミナシが成功した理由の一つは、業界間で共通する課題を捉えたことです。現場で課題となる紙を利用したアナラグ作業の効率化やデジタル化といった課題は、食品業界だけでなく製造業やサービス業にも共通しています。これにより、特定業界の枠を超えて、幅広い業界で利用可能なソリューションを提供できています。

ホリゾンタルSaaS、バーティカルSaaSとの違い

次に、マルチバーティカル戦略と従来のホリゾンタルSaaSやバーティカルSaaSとの違いを詳しく見ていきます。

ホリゾンタルSaaSの特徴

ホリゾンタルSaaSは、業界を問わず、普遍的なニーズを持つ企業に対してサービスを提供するモデルです。たとえば、経費生産や人事管理のように、どの業界でも利用可能な汎用的なツールが代表例です。

  • 高い汎用性:幅広い業界に適用できるため、市場が非常に広い。
  • 競争が激しい:広範囲な市場をターゲットにするため、競合も多く場合によっては価格競争に巻き込まれやすい。

バーティカルSaaSの特徴

バーティカルSaaSは、特定の業界に特化してサービスを提供するモデルです。例えば、建設業や医療業界など、業界固有のニーズに深く応えるSaaSソリューションがこれに該当します。

  • 高いプロダクトマーケットフィット:特定の業界に特化しているため、業界ごとの深いニーズに応えることができ、顧客満足度が高い。
  • 市場規模の制約:特定業界に依存するため、対象市場の規模が限られ、獲得機会が限られる場合がある。

マルチバーティカルSaaSの特徴

マルチバーティカルSaaSは、ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaSの中間に位置する戦略です。複数の業界に展開しながらも、それぞれの業界固有のニーズに対応する柔軟性を持ちます。

  • リスク分散:一つの業界に依存せず、複数の市場に展開するため、経済変動の影響を受けにくい。
  • 柔軟性と汎用性のバランス:共通課題を解決するコアなプロダクトを持ちつつ、各業界に合わせて調整できる柔軟性がある。
  • 成長可能性:複数の業界からフィードバックを得てプロダクトを進化させることができ、成長機会が広がる。

マルチバーティカル戦略を成功させるポイント

1. 汎用的な課題を解決するプロダクト設計

カミナシの例のように、業界横断的に共通する課題を解決できるプロダクトを設計することが、マルチバーティカル戦略の成功の鍵と言えます。

2. 業界固有のニーズに対応する柔軟性

各業界ごとに異なるニーズを柔軟に対応できるよう、カスタマイズや機能追加の選択肢を持たせることも重要です。

3. 業界ごとの深い理解

単に複数の業界に展開するだけでなく、それぞれの業界特有の文化や規制を理解し、それに対応するプロダクト設計が求められます。

まとめ

マルチバーティカル戦略は、SaaS企業にとって成長とリスク分散を同時に実現できる有力なアプローチです。ホリゾンタルSaaSの汎用性と、バーティカルSaaSの専門性を兼ね備えたこの戦略は、複数の業界で成功を目指す企業にとって理想的です。カミナシのような国内企業の成功事例からも分かるように、共通課題を解決するプロダクトを持ちながら、業界ごとのニーズに応える柔軟性が鍵となります。

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青山 俊彦

青山 俊彦カノープス株式会社 代表取締役

SaaSビズサイド(セールスやカスタマーサクセス、インサイドセールス、マーケ、企画領域)の転職支援が得意な人材エージェントです。採用や転職についてお気軽にご相談を!趣味は釣り。長野県安曇野市出身。

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