SaaS企業のTHE MODEL型組織戦略のこれまでとこれからについて

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SaaS業界では、「THE MODEL型組織戦略」が効率的な営業・マーケティング手法として広く知られています。この戦略は、営業、マーケティング、カスタマーサクセスを分業化し、各部門の連携を強化することで顧客獲得から維持までのプロセスを最適化するものです。国内でも多くの企業がこのモデルを導入し、成果を上げていますが、最近では日本の事情に合わせた独自の進化を遂げている企業も増えています。この記事では、THE MODEL型組織戦略の背景や特徴、導入のメリットと課題、さらに成功事例について詳しく解説します。

THE MODEL、各部門の役割と特徴

「THE MODEL」は、SaaS企業における営業・マーケティング活動の効率化を目指した組織戦略です。国内でも福田 康隆氏著書の「THE MODEL(MarkeZine BOOKS) マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス」をきっかけにその存在が広く知られました。福田氏がセールスフォース社で実践したこのモデルは、以下の4つの部門で構成されており、各部門が連携して一貫した顧客対応を実現します。

各部門の役割

マーケティング
マーケティング部門は、見込み客を集め、リードジェネレーションを行います。WebコンテンツやSEO対策、広告キャンペーンを通じて潜在顧客を引き寄せ、興味を持ってもらうことが主な役割です。

インサイドセールス
インサイドセールスは、マーケティングから引き継いだリードを商談可能なレベルまで育成する役割を担います。主に電話やメール、オンラインミーティングを活用し、リードのニーズを確認しながら商談の機会を創出します。

フィールドセールス
フィールドセールスは、インサイドセールスから引き継がれたリードと直接対面で商談を行います。商談の成立を目指し、顧客の課題を解決する提案を行うことが求められます。

カスタマーサクセス
カスタマーサクセスは、既存顧客のサポートを行い、サービスの継続利用や追加購入を促進します。顧客の満足度を高め、解約を防ぐために密接なコミュニケーションが必要です。

特徴

データ主導
各部門がデータを基に戦略を立て、顧客の行動データを活用してターゲティングやフォローアップを行います。

一貫性のあるプロセス
マーケティングからカスタマーサクセスまで、顧客に対する対応が一貫して行われるため、顧客体験の質が向上します。

連携強化
各部門が同じデータを共有することで、部門間の連携がスムーズに進みます。

THE MODEL導入のメリットと課題

メリット

  1. 顧客獲得の効率化
    データ主導のアプローチにより、ターゲティングが正確になり、リード獲得から商談成立までのプロセスが効率化されます。

  1. 顧客維持率の向上
    カスタマーサクセスが顧客を継続的にサポートするため、解約率が低減し、顧客生涯価値(LTV)が向上します。

  1. 営業コストの削減
    インサイドセールスがリードを事前に商談可能なレベルに育成するため、フィールドセールスの労力を削減し、営業効率が向上します。

課題

  1. 導入コストとリソースの負担
    特に中小企業では、THE MODELの各プロセスを効率的に運用するためのツールやリソースが不足している場合が多く、導入に時間とコストがかかります。

  1. データ管理の煩雑さ
    複数の部門がデータを共有する必要があるため、データの管理や統合が煩雑になることがあります。適切なツールを導入し、データ整備のプロセスを確立することが課題となります。

  1. 製品改善とスピード感
    顧客のフィードバックを迅速に製品に反映することが求められますが、製品開発スピードがTHE MODELのプロセスに追いつかないこともあります。

国内SaaS企業におけるTHE MODELの浸透状況

日本国内でもTHE MODELを導入するSaaS企業は増えており、Sansanやfreee、Money ForwardやSmartHRといった企業が代表的な事例として挙げられます。もはやSaaS企業でこのモデルを取り入れていない企業はないともいえる状況です。

特に、SansanはTHE MODELの導入でモデルケースといえる企業でしょう。サービスの黎明期から営業プロセスの分業化を徹底しており、リードの獲得から商談、成約までを一貫して最適化しています。これにより、リードの質を高め、営業の成約率を大幅に向上させることに成功しています。また、カスタマーサクセスチームも非常に強化されており、既存顧客からのアップセル・クロスセルを実現し、LTV(顧客生涯価値)を向上させています。

国内事情に合わせた独自進化も?

最近、国内のSaaS企業の中には、THE MODELから派生した独自の戦略を取る企業も見られます。特に、エンタープライズ企業攻略を目指す企業では、THE MODELを基盤としつつも、異なるアプローチを取り入れる動きが見られるようです。これには以下のような背景が想定されます。

エンタープライズ企業では複数の部署や階層が関与する複雑な意思決定プロセスがあり、従来のTHE MODELの効率的なリード絞り込みプロセスは、この複雑性にマッチしない面があります。また、エンタープライズ企業攻略には、長期的な信頼関係の構築が重要となりますので、比較的短期型のTHE MODELのアプローチでは対応しきれない場面が多いようです。またエンタープライズ企業は業務のプロセスや課題、利用している既存システムも独特な場合が多く、サービス単体の提供だけでは顧客課題を解決できずにシステムインテグレーションやコンサルティングなどが必要な場面もあります。こういった大手ならではの課題に取り組むためには、THE MODELとは異なった戦略が必要となるようです。

大手攻略×業界特化課題に取り組むフルカイテンの例

上記エンタープライズ攻略の独自性に加えて、業界特有の課題解決が必要となる場合は、さらにカスタマイズされたアプローチが必要となってきます。例えばフルカイテン社が良い事例になると思います。同社は小売業界向けに在庫最適化を提供するバーティカルSaaSを提供する企業です。小売業界、しかも在庫の最適化という業界特有の課題を解決するためにはマーケティング、営業、カスタマーサクセス、開発に至るまで全ての社員が業界課題に精通し、顧客と対峙する必要があります。特に同社のカスタマーサクセスは特徴的です。小売業界でMDやDBを経験していたプロフェッショナルが多く、顧客と対等な課題認識力と顧客を超える課題解決力を備え、カスタマーサクセスを超えたコンサルティングサービスの提供を基本としています。また、同社が戦略上ターゲットとしている企業はエンタープライズ企業が中心。サービスの継続には多くの利害関係者に対応する必要があります。同社のカスタマーサクセスは顧客先サービス利用者、推進者、経営側(投資対効果を知りたい方)など複数のステークホルダーと対峙するなどTHE MODEL型には収まらない活動を行っています。

標準的なTHE MODEL型アプローチではなく、顧客のビジネスプロセスに深く入り込むことで、長期的なパートナーシップを築くフルカイテンの取り組みは、日本の大企業攻略へ向けた新しい形になる可能性があります。また、複雑な課題を持つ企業に向けたコンサルティングを有料のプロフェッショナルサービスとして切り出すなどTHE MODELから派生したサービスも次々と生まれています。プレイドのALPHAというサービスもその一例と言えます。

まとめ

THE MODEL型組織戦略は、SaaS企業の効率的な成長を支える基本的なフレームワークとして広く採用されています。国内ではSansanやfreeeがこのモデルを活用し、成果を上げていますが、最近ではバーティカルSaaS企業やエンタープライズ市場に特化した企業が独自の進化を遂げています。フルカイテンのように、特定業界のニーズに応じた高度なサポートを提供し、SIer的なアプローチを取り入れたエンタープライズアカウント攻略の成功企業も出てきています。今後も、SaaS業界はこうしたモデルの進化を続け、さらなる成長を目指すでしょう。

青山 俊彦

青山 俊彦カノープス株式会社 代表取締役

SaaSビズサイド(セールスやカスタマーサクセス、インサイドセールス、マーケ、企画領域)の転職支援が得意な人材エージェントです。採用や転職についてお気軽にご相談を!趣味は釣り。長野県安曇野市出身。

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