AIエージェント時代、SaaSの価値はどう変わるか――SoRから考える

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AIエージェントの登場によって、SaaSの役割は少しずつ変わり始めています。

これまでSaaSの効果として中心だったのは「正しく記録すること」でした。しかしこれからは、その情報をもとに「仕事を前に進めること」までが価値として求められています。

この変化を理解するうえでカギとなるのが、SoR(System of Record)という概念です。本記事ではSoRの基本を整理したうえで、AIエージェント時代にSaaSの価値や仕事の進め方がどう変わるのかを解説します。

SoRとは何か――会社の「正しい記録」を支える仕組み

SoR(System of Record)とは、企業の重要な情報を正確に記録し、必要なときに参照できるようにする仕組みです。会計・経理、人事、受発注管理システムなどがその代表例で、具体的には以下のような情報を扱います。

  • 顧客情報
  • 契約情報
  • 売上・請求データ
  • 人事情報

言い換えると、SoRは会社にとっての「公式な記録置き場」です。その価値は正確さにあります――入力された情報にズレがないこと、必要な人が必要な情報を確認できること、あとから履歴を追えること。

日々の業務では目立ちにくいですが、SoRが不安定だとデータの整合性が崩れ、組織全体の判断や対応にズレが生まれます。AIが注目される時代になっても、信頼できる記録が必要なことは変わらず、その重要性はむしろ高まっています。

AIエージェントは「調べる」から「進める」へ役割を広げる

これまでのAI活用は、文章作成や要約、検索補助といった用途が中心でした。

AIエージェントはそこから一歩進み、ツールや外部データにアクセスしながら、複数のステップにまたがって判断・実行できる点が特徴です。

たとえば、申請内容をもとに関連データを参照し、処理内容を整理したうえで、必要な登録や更新まで一連の流れとして進める、といった支援が可能になります。これまでは人が複数のシステムを行き来しながら手作業で対応していた業務の一部を、まとめて処理できるようになります。

つまり、価値の中心が「情報をどこに保存するか」だけでなく、「その情報を使ってどのように業務を前に進められるか」へと広がっています。

SaaSに求められる役割の変化――「記録」から「アクション」へ

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AIエージェントの広がりによって、SaaSに求められるものが変わっています。

これまでは、画面の使いやすさや情報の一元管理が差別化の軸でした。しかしこれからは、記録された情報を起点に、業務がどれだけスムーズに進むかが問われます。

具体的には、

  • 問い合わせ内容をもとに担当者へ自動で振り分ける
  • 契約更新が近い顧客を検知して、事前にアクションを準備する
  • 商談内容から次の提案を整理する

といった流れが、自然につながることの価値が高まっています。

ここで重要になるのが、SoRの存在です。AIが判断や処理を担う場面が増えるほど、参照するデータの正確性が問われます。契約情報や請求データに誤りがあれば、その影響は業務全体に広がります。

つまり、SoRは引き続き不可欠な土台でありながら、その上でアクションまでをつなぐ設計が、これからのSaaSの価値になります。単なる入力画面や一覧表示では差別化が難しくなり、「情報を持っていること」ではなく「その情報を使って仕事を前に進められること」が重要になります。

SaaS業界で働く人は「業務を設計する力」が武器になる

この流れは、SaaS業界で働く人のキャリアにも影響します。

今後は、ツールを操作できるだけでなく、どの情報を基準にするのか、どこまで自動化するのか、どの場面で人の判断を入れるのかを設計できる人の価値が高まります。

SaaSの価値そのものも変わります。「入力しやすい」「見やすい」に加えて、「仕事が前に進む」「抜け漏れが減る」「安心して自動化できる」といった観点がより重視されるようになります。

AIを脅威として捉えるよりも、AIとSoRをどう組み合わせて業務を改善できるかを考えられる人材を目指すほうが、キャリア上の現実的な強みになります。ツールを使う力よりも、仕事の流れを理解して仕組みに落とし込む力が、これからの武器です。

まとめ

SoRは、企業の重要な情報を正しく記録するための基盤として、これからも欠かせない存在です。一方で、AIエージェントの普及によって、その価値は「記録すること」だけでなく、「その記録をもとに仕事を進めること」へと広がっています。

SoRを整えたうえで、そこからアクションまでどうつなげるか。この視点を持つことが、SaaS業界での強みにつながっていきます。

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