OBCやSAPなど老舗ERP勢の牙城攻略について

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基幹業務システム市場では、OBC(勘定奉行)や応研(大臣シリーズ)、SAP、ワークスアプリケーションズなどの老舗ERPベンダーが長年にわたり強固なポジションを築いてきました。特に地方都市では、こうしたベンダーが顧客に深く入り込んでおり、新興SaaSベンダーにとっては簡単には攻略できない領域です。本記事では、老舗ERP勢の強みとその牙城を崩すための戦略を整理し、SaaS企業がどのように攻めるべきかを解説します。

老舗ERPベンダーが築いた信頼の背景とは

OBCや応研、SAPなどの老舗ERPベンダーは、30年以上にわたり業務パッケージの開発と販売を続けてきており、特に日本の商習慣や法制度に合致した製品設計が評価されてきました。インストール型のソフトウェアであっても、法改正への即時対応やきめ細かいサポートを提供することで、多くの企業から厚い信頼を獲得してきたのです。特に会計、人事、給与といった業務は制度変更が頻繁であり、システム更新の頻度も高いため、信頼性の高いベンダーが選ばれる傾向にあります。さらに、地場の販売パートナーとの関係性や導入支援体制の充実も、老舗ERPの強みとなっています。

地方都市における「密着型営業」の実態

老舗ERPベンダーの強さは、特に地方都市において顕著です。地元に根ざした販売代理店が長年にわたり顧客との関係性を築き、定期的な訪問や細かな業務相談を通じて信頼を獲得しています。このような「密着型営業」は単なる製品提供にとどまらず、業務改善提案や補助金活用のアドバイスなども含まれており、顧客はシステム以上に「人」に価値を感じています。また、ベンダーと代理店が一体となって地元企業をサポートする体制が確立されており、新興SaaSベンダーが入り込む余地が非常に限られているのが現状です。

既存ERPの課題とSaaSにある勝機

しかし、老舗ERPにも限界は存在します。オンプレミス型のソフトウェアは初期導入コストが高く、バージョンアップのたびに追加費用が発生します。加えて、クラウド対応が遅れている製品もあり、リモートワークや複数拠点での利用に柔軟性を欠くケースがあります。この点において、クラウドベースのSaaS型ERPは初期コストが抑えられ、機能の自動アップデートやモバイル対応など、現代の業務環境に適しています。また、API連携による他ツールとの統合も容易なため、DXを進めたい企業にとっては魅力的な選択肢となり得ます。

新興SaaSベンダーが取るべき営業戦略

SaaSベンダーが老舗ERP勢の牙城を崩すためには、「製品力」だけで勝負するのではなく、営業体制にも工夫が必要です。具体的には、地方の有力な士業(税理士・社労士)やITコンサルとのパートナーシップを組み、信頼関係を活用した紹介ルートを構築することが有効です。また、旧来型ERPでは対応が難しい業務効率化や自動化のニーズに応える提案型営業が求められます。無料トライアルやサポート体制の充実など、導入への心理的障壁を取り除く工夫も欠かせません。ローカルニーズを汲み取る柔軟な導入設計も、勝負の鍵となるでしょう。

成功事例に学ぶ、牙城突破のヒント

実際に、あるSaaS会計ベンダーでは、地方の中堅企業に対して「月次決算の早期化」という明確な課題解決を提案し、旧来の会計ソフトからの切り替えに成功しました。この企業では、紙ベースの業務が多く残る現場に対して、SaaS導入による業務可視化・属人化排除のメリットを丁寧に説明し、現場の理解を得たことが決め手となりました。また、初期導入支援を無料で提供するキャンペーンや、税理士との連携による業務フロー設計の支援なども高く評価されました。SaaS導入を単なる「置き換え」ではなく、「業務改革」として提示することが成功のポイントです。

まとめ

老舗ERPベンダーは、長年の信頼と地域密着型の営業体制により強固な基盤を築いています。しかし、クラウド化やDXの潮流の中で、SaaS型ERPには新たな価値を提供できるチャンスがあります。SaaSベンダーは、製品力に加えて提案型営業や地域との連携を強化し、顧客課題を共に解決する姿勢で臨むことが、牙城突破の鍵となるでしょう。

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