
THE MODELとは、SaaS業界を中心に広く導入されている営業プロセスの分業モデルです。マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスという4つの領域で業務を分担し、業績を可視化しやすくすることで効率的に成果を出すことを目指します。しかし、現場でこのモデルを実践する中で「なぜか歯車が噛み合わない」という違和感を覚える方も少なくありません。本記事では、THE MODEL型の構造的な課題を明らかにし、それを乗り越えるためのキャリア戦略と組織設計について掘り下げます。
分業でなぜ効率が落ちるのか?THE MODELの表と裏
THE MODELは、営業プロセスを科学的に分解し、それぞれの工程に専門性を持たせることで、全体の効率を最大化しようとする手法です。この考え方はSalesforceをはじめとした多くのSaaS企業で実績があり、日本でもDX推進の一環として多くの企業に導入されています。しかし、いざ現場で運用を開始すると「マーケが生んだリードをインサイドセールスが追わない」「CSがフィールドセールスの案件状況を知らない」など、各フェーズで分断が起こります。
これは、THE MODELの設計通りに運用できていないのではなく、モデル自体が前提とする「ゴール」「部門間の連携」が十分に育成されていないことが問題なのです。
分業構造が引き起こす現場の“生きた”問題点
THE MODEL導入後、最も多く聞かれる課題が「セクショナリズムの深刻化」です。マーケティングが数値だけを追い、質の低いリードをインサイドセールスに渡すことで、次のフェーズが機能しなくなる。さらに、フィールドセールスが獲得した顧客情報がCSに引き継がれないと、顧客体験が分断されます。これらはすべて“情報の断絶”から起こる問題です。
また、各部門がKPI達成に固執するあまり、全体最適が見失われるケースも少なくありません。たとえば、インサイドセールスが「数をこなす」ことに集中し、商談化率が落ちるなど、質を担保できなくなることもあります。このような状況が続くと、現場では「自分の仕事は回っているのに、なぜ成果につながらないのか?」というジレンマに直面するのです。
導入企業で見える失敗パターンと限界のサイン
THE MODEL導入企業では、部門ごとのデータ定義の違いやオペレーションの不統一が、しばしばボトルネックになります。たとえば、マーケティングはリード数で成果を測る一方、セールスは商談化率や受注率を重視するため、評価軸がずれて連携が機能しなくなることがあります。
さらに、各フェーズのプロセスがデジタル化されていない、もしくは個別最適化されたツールが乱立していることで、統一されたデータ構造や顧客ビューを持てず、PDCAが回らないという事例もあるようです。こうした失敗は、「仕組みで売る」ためのモデルが、実態として“属人的なリカバリー”に頼る運用に逆戻りしていることを意味します。
キャリアの成長を止める「視座の分断」

THE MODELに沿ったキャリアを積むことで、各領域の専門性は確かに高まります。しかし、その専門性が“フェーズに閉じたスキル”にとどまると、次のキャリアでの拡張性が乏しくなるという課題が出てきます。特に、SaaS業界におけるミドルキャリア層では、「もっと全体を見渡せる立場に進みたいが、CSしか知らない/営業しか知らないために選択肢が限られている」といった声が多く聞かれます。
また、各部門での経験だけでは「CRO(Chief Revenue Officer)的な視点」が身につきづらいのも課題です。経営に近い立場では、マーケからCSまでの全プロセスを統合的に判断する視点が求められますが、THE MODELでは意識的に経験を設計しない限り、こうした視座は育ちにくいのです。
境界を越える戦略:人・目的・プロセスをつなぐには
このような分断を解消するには、まず「共通目的に基づくKPI設計」が不可欠です。各部門が“協力しなければ達成できない指標”を持つことで、自然と連携せざるを得ない構造を作ることができます。たとえば、商談化率やLTVといった“全体で成果を見る指標”を共通KPIに設定することが有効です。
次に、部門横断で連携を担う「Sales Enablement」や「Ops」などの役職を設けることで、境界を越えて調整・統括できる体制を構築できます。これに加えて、プロセス定義やデータ構造の共通化により、部門間で正確に情報が流れ、組織全体としてPDCAを回す土台が整います。
さらに、キャリア面ではジョブローテーションやクロスフェーズのOJT・研修を取り入れることで、早期から「全体を見る力」を育む環境を設計できます。これにより、若手でも視座を高く持った人材として、次のステップに進む選択肢が広がっていくのです。
まとめ
THE MODEL型の分業体制は、効率的な営業活動を支える一方で、部門間の分断やキャリアの停滞という問題も抱えています。現場で感じる違和感の正体は、分業そのものではなく、連携・育成設計の不足にあります。これを乗り越えるためには、共通KPIの設計、部門横断の役職設置、プロセス共通化、そして横断型キャリア設計といった戦略が求められます。THE MODELの枠を越え、プロセス全体を俯瞰しながら成果を導く人材こそが、これからのSaaS営業組織の中核となっていくでしょう。