
「人を笑顔にしたい」という思いで始まったフルカイテン株式会社、瀬川代表の起業ストーリー。ベビー服ECサイト立ち上げからの3度の倒産危機、そしてその過程で生まれた在庫分析システムの開発。前編では、「FULL KAITEN」というSaaSサービスが誕生するまでの軌跡を伺いました。
後編では、1兆9,000億円規模の売上データを預かるまでに成長した現在の組織づくりに焦点を当てます。「強い個」を重視した採用戦略、独自のバリュー設計、そして「世界の大量廃棄問題を解決する」というミッションの実現に向けた次なる一手とは――。約50名の組織となり、変革期を迎えるフルカイテンの今に迫ります。
「強い個」で築く、次なる成長ステージ

左から宮本さん、瀬川代表、宮尾さん
PROFILE
代表取締役社長 瀬川 直寛
1976年、奈良県生まれ。慶應義塾大学理工学部機械工学科卒業。新卒でコンパックコンピュータ(現ヒューレットパッカード)に入社し、2年目には6億4,000万円の売上を記録。その後、複数のスタートアップ企業で営業として活躍し、年商15億円の事業創出や、全社売上の9割を一人で達成するなど、卓越した実績を残す。2012年にEC事業のハモンズ(現フルカイテン)を起業。3度の倒産危機を乗り越える過程で在庫分析システム『FULL KAITEN』を開発。現在は約50名の組織となったフルカイテンは「世界の大量廃棄問題を解決する」というミッションのもと、小売業界の革新に取り組んでいる。
PROFILE
広報 宮本 亜実
SaaSスタートアップでカスタマーサポートに従事後、2012年CEOの瀬川と共にフルカイテンを創業。2度の出産を経て、現在は時短勤務で採用広報を担当している。
PROFILE
人事 宮尾 夏鈴
ベネフィット・ワンでのサービス開発、IT系企業でグローバル採用部で外国人採用を経験。一人目人事としてフルカイテンに入社。
――フルカイテンはこれから次の成長フェーズに向かうと思いますが、そこで求めるのはどんな人材なんでしょうか?
瀬川代表:社内でよく話しているのが、「強い個」、つまり個としての強さを求めています。私はよく「入社しても教育はしない」と言うんです。教育が必要な人は今のフェーズだと難しいと思っています。
もちろん、小売業界のさまざまな知識をオンボーディングとしてレクチャーすることは必要です。ですが、例えば営業職の人に営業のいろはを教えるといった教育はしません。つまり、そういう教育が必要ない人、主体的に動いて結果を出せる人が欲しい。これは営業に限らず、エンジニアなど全職種で同じです。
フルカイテンは今後も人数は増えると思いますが、一昔前のスタートアップのように人数を誇るようなつもりはありません。むしろ少数精鋭で、みんなが高い給料をもらえる会社にしていきたい。一人当たりの生産性を重視する意味でも、すでにプロフェッショナルとして活躍できる人に小売業界の知見を身につけてもらい、その力を存分に発揮してほしい。一人で二人分、三人分の結果を出せるような人が今一番必要です。 特に重要なのは、会社を引っ張るポジションの人材です。この層が増えていかないと、取締役が執行レベルまで関わらざるを得ない状況が続いてしまいます。前編でもお話しした通り、私たちは組織の閉塞感という課題を経験しています。特に組織の縦割り感や、権限移譲の難しさに直面してきました。
この経験があるからこそ、主体性を持って人を引っ張り、自分の担当以上の価値を生み出していける、そういった人材をもっと増やしていかなければ、本当の意味で強い会社にはなれないと考えています。

組織について熱く語る瀬川代表
――拡大期になると、サービスを拡げるために採用数を優先する企業も多いと思いますが、そういった戦略は取られないのでしょうか?
瀬川代表:やらないですね。ただ、「強い個」を採用しようとしてカルチャーを無視し、結果として組織が歪んでしまうケースもよく聞きます。しかし、フルカイテンはその心配はないと思っています。なぜなら、創業期からカルチャーを重視した採用を徹底してきたからです。その結果、良い組織の土壌ができ、働きやすい会社になっています。
このカルチャーの土台があるからこそ、「強い個」を受け入れる余地があるんです。カルチャーの基盤のないところに突然「強い個」を入れたり、価値観の異なる人材が混在したりすると、組織としてまとまりにくい。しかし、私たちはすでに強固なチームワークができあがっているので、新しい才能を活かせる環境が整っているんです。
――前編では「誰かの幸せのために」という思いについてお話しいただきました。これから来る仲間に対してもそういった価値観を持つことを期待されているのでしょうか?
瀬川代表:一人ひとりが大事にしているものは同じでなくていいと思っています。仕事が一番じゃなくても、家庭が一番でも構いません。仕事においても、それぞれが大事にすることが違っても全然問題ない。むしろ、その多様性の方が大切だと考えています。
スタートアップのビジネスは本当に難しいんです。お金も時間も人材も限られている中で、さまざまな課題に直面します。そんな時、成功の鍵となるのは「多様な視点」を持っていることなんです。同じような考え方の人ばかりだと視点が限られ、難しい問題に直面した時に全員で悩んでしまう。これは弱さになります。
さまざまな視点があることで、問題への多角的なアプローチが可能になり、結果的に強くなると思っています。ただし、揃えなければいけないものが一つあります。それは「何が何でも結果を出す」という結果へのコミットメントです。
「カスケード」新たなバリューが生み出す、価値創造

フルカイテンが行う全社MTG「ALL HANDS MTG」で配られた新バリューが記載されたマグネット
――御社のバリューについて教えていただけますか?
瀬川代表:実は2024年に現在の3つのバリューに変更しました。組織の閉塞感を解消し、より良い状態をつくり、維持していくために必要だと感じたからです。
特に重要なのが「カスケード」(※1)です。一般的な組織は上意下達のトップダウンや、ボトムアップといった縦割り構造ですが、これは事業の仕組みが確立していて、ベルトコンベアのように効率的に回せばいい段階なら有効です。しかし、我々のような発展途上の事業では、常に戦い方を変えていく必要があります。そのためには、横の連携を取りながら最適な道を見つけていく、日本刀のようなしなやかさを持った組織が必要なんです。
だから2024年の春くらいから、カスケードという言葉を社内でよく使うようになったんです。「カスケードしてる?」って声をかけたり、いい連携を見かけたら「めっちゃカスケードしてるやんけ!」って言ってみたり。そうしているうちに社員からも自然と「カスケード」って言葉が出てくるようになって、組織に浸透してきたので、これをバリューにしたんです。
2つ目のバリューは「失敗を恐れるな」です。
1つ目のバリュー、「カスケード」を実践しようとすると、必ずマインド面での課題が出てきます。「失敗したらどうしよう」という気持ちですね。普段あまり接することがない部署の人と横の連携を取ろうとすると、変なこと言って問題になったらどうしよう、という不安も出てきます。でも、それがカスケード型の組織を進めていく上では邪魔になってしまいます。
だから「失敗を恐れるな」ということも同時に言い始めました。失敗して残るものって経験と気づきなんですよ。悔しさは必ず明日への糧になる。これが本当の資産なんです。でも、本当はこうしたかったのに、失敗を恐れてチャレンジをやめてしまったら、そこに残るのは後悔だけ。
私たちの組織が蓄えるべき資産は、この気づきと経験なんです。だから失敗はしてほしい。これは全社員が集まる場で毎回言っていて、2025年1月にも話しました。カスケード型の組織を運営していくには、一人ひとりが失敗を恐れない。失敗してもいいんです。だって経験と気づきが残って、次のチャレンジで成功するはずですから。
3つ目のバリューは「村人Aになるな」です。
「失敗を恐れるな」というバリューが浸透してくると、失敗を恐れずに発言する人、手を挙げる人が出てくる。すると今度は、そういう積極的な人を前にして、少し引っ込んでしまう人が出てくる。これはもう失敗を恐れているわけじゃなくて、単純に性格の違いなんです。 でも、そういう人も活躍できないと強い組織にはなれない。そこで生まれたのが「村人Aになるな」です。せっかくカスケード型の組織をつくって、一人ひとりが組織に貢献できる存在なのに、性格的な理由で声が小さくなってしまう。「それじゃ村人Aだよ。あなたには名前があるんだから、もっと前に出てきて」という思いを込めたんです。この3つのバリューが、お互いを補完し合いながら、私たちの目指す組織を形づくっています。
※1 カスケードにはさまざまな意味があります。ビジネスの世界ではトップダウン型の伝達方法を指すこともありますが、フルカイテンが示す「カスケード」は、もう一つの意味である「連続してつながる、数珠つなぎのようなもの」をイメージするとわかりやすいと思います。
フルカイテンでは、組織全体が連携し、連鎖的に成果を生み出す流れをカスケードと呼んでいます。つまり、「他部署との連携」を強化し、縦割りによる部分最適を防ぎ、組織全体の最適化を目指すための行動指針がフルカイテンの「カスケード」です。
――バリューの浸透による変化は感じられますか?

バリューの変更と共に起きた社内の変化を語る人事の宮尾さん
宮尾さん:採用においては、「カスケード」というバリューになってから部署間の協力が格段に増えました。最近エンジニアを4名採用できたのも、エンジニア組織が積極的にアドバイスをくれたおかげです。
瀬川代表:印象的だったのは、エンジニアがカスタマーサクセスと一緒に顧客先に訪問するようになったことです。しかも、普段リモートで働いているエンジニアが自ら現場に行って顧客の声を聞くんです。「顔の見える開発がしたい」というエンジニアの声をよく聞きますが、それが自然発生的に実現されている。これは組織の大きな強みだと思います。
エンタープライズ市場で革新を起こすチームへ
――現在、具体的にどのようなポジションを募集されていますか?
宮尾さん:ビジネスサイドではエンタープライズセールスとカスタマーサクセスです。エンジニアサイドでは、バックエンドのデータ基盤を担当する人材とプロダクトオーナーが最優先です。
「強い個」の採用に切り替わってから、採用のアプローチも変える必要が出てきました。求める人物像が明確になってきた分、自社からそれを発信することや、エージェントさんや求人媒体に頼るだけでなく、自社からの個人への直接アプローチも重要になっています。そのために社内発信やウェビナーの開催などを今まで以上に強化しています。
――採用強化に合わせて、社員の方の発信が増えている印象がありますね。
宮本さん:はい、「強い個」の採用に注力してから、社内の「強い個」に記事を書いてもらう取り組みを始めました。2025年の2月は、8本の記事を公開しています。以前、私が書いていた時は解像度が低く、フルカイテンの雰囲気を伝えるような内容でしたが、個人が書くことで仕事の具体的な内容まで伝わるようになりました。

創業期から会社を支え、現在は広報として活躍する宮本さん
その結果、記事を読んだ人から直接コンタクトがあったり、キャリアの相談を受けたりする機会も増えてきています。バリューの「カスケード」というキーワードを出してから「全部署で横串でつながって協力し合おう」という組織の風土が醸成されてきました。
私からも思い切って、協力を呼びかけたところ、みんなが積極的に記事を書いてくれるようになりました。これほど積極的に発信している会社は珍しいのではないでしょうか。
――これから入社を考えている方へメッセージをお願いします。
宮尾さん:今までで一番面白いフェーズだと思います。今のフルカイテンは、THE MODELからの脱却を図っています。従来型のSaaSサービスだけでは限界があると気づき始めている人も多いと思いますし、そういう方にとっても面白い時期なのではないでしょうか。
瀬川代表:今のフルカイテンはSaaS業界の中では確かな存在感を示せてきていると思います。MRRなどの指標は重要ですが、それは結果に過ぎず、最も重要なのは価値の提供です。
そのために、マルチプロダクト戦略を取り、ビジネスモデルの変革も進めています。これが成功すれば、SaaSでエンタープライズを攻める際の新しいモデルになるかもしれません。それくらいチャレンジングな最先端の取り組みをしています。
子どもたちに誇れる未来を創る
――それでは最後の質問です。FULL KAITENをサービスとして世に出そうと決めた時、今の状況は想像できましたか?
宮本さん:いいえ、全く想像していませんでした。もともとは小規模なネットショップや個人事業主向けの、月数万円で使えるような気軽なサービスを想像していたんです。それが今では名だたる企業に使っていただいていて。
子どもとショッピングモールに行くと「ここもFULL KAITENを使ってるね」という会話をするんです。子どもが「スリーコインズも使ってるの?FULL KAITENすごい!」と言ってくれたり。社員みんなも買い物に行った時に家族に「ここもFULL KAITENを使ってるんだよ」と誇らしげに話すそうです。
瀬川代表:我々が本当につくっているのは「未来」なんです。プロダクトやビジネスモデル、デザインではなく、地球の未来をつくっているんです。だから大変なんです。
でも、この会社が成功すれば、本当に世の中が変わるかもしれない。今よりも争いが減るかもしれない。そういう明るい未来をつくるチャレンジに、一緒に情熱を燃やせる人と働きたいですね。

最後もフルカイテンポーズをお願いしてみました。
【インタビュー後記】
フルカイテンとのご縁が始まったのは、2021年の初春。
最初に感じたフルカイテンの印象は、「瀬川さんが圧倒的に強い会社」でした。
同時に、取締役が執行業務を担い続ける状況では、次のフェーズへ進むための変化が必要なのではないか、とも思っていました。
しかし、それも大きく変わりつつあります。
若手の抜擢人事が進み、フルカイテンは成長の舵を本格的に切った段階にあります。
そんなフルカイテンに対して、当時から今も変わらず感じていることがあります。
それは、自分たちの仕事に対する 「真剣度」、そしてそれを推進する皆さんの 「ピュアさ」 です。
今回の取材を通じて、彼らが抱えてきた不安や悩み、経験してきた失敗や別れ、そこから生まれた悲しみや挫折を改めて深く知ることができました。
しかし、フルカイテンはそうした苦境の中でも決して崩れることはないと思います。そこには、チーム全員で育ててきたカルチャー、支え合う土壌があるからです。
求められるのは、"強い個"
組織も、企業のフェーズも変化しています。
今、フルカイテンはさらなる飛躍のために、より強い戦力を求めています。
「カスケード」
「失敗を恐れるな」
「村人Aになるな」
このバリューに共感し、挑戦を恐れない人にぜひ加わってほしい。
そして、いつか「上場の鐘」を鳴らすその瞬間を見届けられることを、心から願っています。
インタビュアー:カノープス青山
⭐️フルカイテンをもっと知りたい方はこちらもCHECKしてみてください。
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フルカイテン株式会社 公式note