SaaS企業の多くが注力するエンタープライズ企業攻略。その理由とは?

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SaaS業界において、エンタープライズ企業の攻略は非常に重要な戦略として多くの企業が注力しています。エンタープライズ企業は、従業員数が数千人、年間売上が数百億円以上に達する大規模な組織とされ、その巨大な規模はSaaS企業にとって莫大な収益源となります。本記事では、SaaS企業がなぜエンタープライズ市場に注力するのか、そのメリットと成功戦略などついて詳しく解説します。

エンタープライズ企業の定義と中小企業との違い

エンタープライズ企業の定義はSaaSベンダーごとに異なることがあるため、必ずしも一律ではありません。例えば、あるベンダーでは10,000人以上の従業員を抱える企業をエンタープライズと定義することもありますし、また別のベンダーでは規模だけでなく業界の特性や導入プロダクトの複雑さによっても区分が異なる場合があります。少々わかりにくいですが、一般的に従業員数1,000人以上、または年間売上が100億円以上の大規模企業を指すことが多いようですので本記事はそれを基準にしていきます。
これに対し中小企業もまた定義について資本金や業態、従業員規模などの基準で様々な解釈があります(中小企業庁HPより)。本記事では従業員数1,000人以下、年間売上が数億円未満の企業を中小企業としていきます。

エンタープライズ企業は、その規模故、複数の事業部門やオペレーションを抱え、それぞれで異なるITソリューションが必要とされます。デジタルトランスフォーメーション(DX)の一環として、数十億円規模のIT投資を行う企業も少なくありません。このような複雑な構造課題や予算を持つエンタープライズ企業との取引は、SaaS企業にとって大きなメリットがあります。

エンタープライズ企業攻略がSaaSにもたらす経済的メリット

エンタープライズ企業との契約は、SaaS企業にとって大きな収益チャンスとなります。契約規模が数千万から数億円に達するケースが多く、決裁してもらうために苦労はあるものの、一度契約すると契約期間も数年にわたるため、長期的で安定した収益を確保できます。一部のSaaS企業では、エンタープライズセグメントが売上の50%以上を占めることもあり、いかに重要な市場であるかがうかがえます。加えて、エンタープライズ企業と契約することによって、他の大手企業からの信頼が高まり、新たな顧客を獲得しやすくなるというブランド価値の向上効果も期待されます。

また、エンタープライズ企業はIT投資に積極的でもあるため、契約後の単価を引き上げることができ、追加オプションやプロサービスの提供によるアップセルの機会も多く広がっています。こうした要素が、SaaS企業がエンタープライズ市場を魅力的なターゲットとしている理由です。

エンタープライズ企業攻略に必要な成功要素

エンタープライズ企業攻略の成功には、いくつかの重要な要素が必要です。

  1. プロダクトのスケーラビリティ
    エンタープライズ企業は、膨大なデータ量と複雑な業務プロセスを抱えているため、SaaSプロダクトがそれに対応できるスケーラビリティを持つことが必須です。たとえば、数千人規模のユーザーが同時に利用しても性能が低下しないシステム設計が求められます。
  2. 高度なセキュリティ対策
    エンタープライズ企業は、機密情報を多く扱っており、データ漏洩やサイバー攻撃に対する厳格なセキュリティが必須です。ISO 27001やSOC 2などの国際的なセキュリティ認証を取得し、信頼性を示すことが効果的です。これにより、企業のIT部門や法務部門との交渉がスムーズに進むことが期待されます。
  3. カスタマーサクセス&サポートの強化
    エンタープライズ企業は、導入後の運用サポートに対しても高い期待を持っています。専任のサポートチームを設置し、万全なサポートを提供することが求められます。

エンタープライズ向けSaaS戦略の難しさ

エンタープライズ市場には多くのメリットがある一方で、その攻略は非常に難しいとされています。まず、エンタープライズ企業は意思決定プロセスが複雑であり、契約締結までに数ヶ月から1年以上かかることは当たり前です。これは、商談に関わるリソースが長期間拘束される可能性があり、他の案件や売上に影響を及ぼすこともあります。
回避策としては、契約を段階的に進める方法を取る企業もあるようです。まずは小規模なパイロットプロジェクトを提案し、迅速な成果を示すことで、企業全体へのフル導入へとつなげていくイメージです。

また、競争の激化も大きな課題です。SaaS市場は急速に拡大しており、競合他社との価格競争や差別化が求められる場面も増加しています。これに対しては、顧客との定期的なコミュニケーションや追加サービスの提案など、継続的な価値提供を行うことで契約更新を確実にすることが重要です。

まとめ

本記事では、SaaS企業がエンタープライズ企業を攻略する理由とそのメリット、成功要素、その難しさについて解説しました。エンタープライズ企業は、巨大な市場規模と高い収益性を持ちながらも、長期的な契約プロセスやサポートコストなどのリスクも存在します。しかし、適切な戦略を持ってこれらの課題に対処することで、SaaS企業にとってエンタープライズ市場は大きな成長機会を提供するフィールドとなります。そして今市場で最も求められているのはこのエンタープライズ企業攻略経験を持つビジネスパーソンでもあります。

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青山 俊彦

青山 俊彦カノープス株式会社 代表取締役

SaaSビズサイド(セールスやカスタマーサクセス、インサイドセールス、マーケ、企画領域)の転職支援が得意な人材エージェントです。採用や転職についてお気軽にご相談を!趣味は釣り。長野県安曇野市出身。

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